お前なんざ何の価値もねェ、だから俺に寄って来るなと、
いつものように吐き捨てるクロコダイルは、
まったく連れない素振りでコートをひるがえすもので、
どうしてあんたはそんなにも素直じゃないのよと呟く羽目になった。


彼のその、無駄なまでの辛らつな言葉は愛するに値するし、
すぐに砂となり姿を消すこの男を捜すのは一苦労なわけだ。
クロコダイルのいない日常は余りに有り触れているし、非常に詰まらない。
だから、こんな機会を逃すわけにはいかない。


「俺に触るんじゃねェ」
「久しぶりに会ったんだからいいじゃない、少しくらい話をしてよ」
「話なんざねェ。手前と話す事なんざ、生憎だが俺ァ持ち合わせちゃいねェんだよ」
「あたしはあんたと話がしたいのよ」
「うるせェ女だ」


ほんの小一時間前にドフラミンゴと賭けをした。
あの男を落とせたら、俺ァ手前の言う事を何でも聞いてやるよ。
人の恋路を賭けの対象なんかにしないで頂戴。
そう言えば、何が恋路だと笑う。
あの男が相手にする道理もねェだろうがと続けたドフラミンゴは、
札束をちらつかせ、もう一度賭けに乗るかと笑った。


「あんたがさっき、あたしとドフラミンゴの会話を聞いてたのは知ってるけど」
「…」
「あいつはあいつで、ああいう男だし、そもそもあたしがあんたに惚れてるのは十分承知でしょ」
「知らねェな」
「今、言ったじゃない」
「そうか?」


この男に愛を差し出しても返って来るものといえば、
こんな、取るに足らない言葉ばかりで、だから尚更飢える。
すぐに手に入らないものばかりを求めるのは海賊の悲しい性だ。きっと。
だからこうしてすぐ砂になる男を―――――


。お前にゃ、俺は扱えねェ」


分かったらとっとと諦めろ。
半ば砂と化した彼はそう言い、今回もこちらの身も心も置き去りにする。
ちょっと待ってよ。待って。
いつものようにそう縋れば、彼の掌が頭を撫でたような気がしたが、
感触は砂になりじき消える。


駆け足で寄り添うこちらを一度も見ない男は、
あたしの顔を覚えているのかしらと今更な疑問に気づき、
指の間を零れる砂に気を取られていれば、
支払いはキャッシュで頼むぜ、だなんて声が背後から聞こえた。


きみを愛する権利


拍手、ありがとうございました!
第六十二弾はクロコダイルでした。
クロコダイルさんかっけー。
クロコは気持ちになんてとっくに気づいているし、
まんざらでもないけどこう…気分が乗らない、的な…。
ドフラミンゴはオマケです。

2010/12/09