目前に立つ彼女は余裕の素振りでタバコを投げ捨てた。
まるで目に見える惨事。手に負えなくなった思い出がそこにいる。
親父に迷惑をかけるわけにはいかないし
(そもそも親父は何とも思っちゃいねェだろうが)
エースやサッチにばれたら何だかんだとややこしい話になり兼ねない。
という事は、ここで決着をつけなければならない。


幼い頃の大きな失敗は後々に響くわけだ。
頭の悪かった若かりし頃の己を戒めたい。
いや、だけども。
もう少し早めに振りかかってもよかったんじゃねェかよぃ。


「一番隊隊長直々にお出迎えだなんて、喜んでもいいのかしら」
「…悪ぃ事は言わねェ、さっさと帰れよぃ」
「相変わらず詰まらない男よね」


大きく背伸びし、彼女の準備は完了。
早くかかって来いと舌を出す。
こんな場面をやり過ごす術は持たず、どんなやり方が正しいのかも分からない。
他の誰でもいい、彼女でなければ誰だって構わない。
こうして力量を測るのは珍しくないのだし、何れどちらかが散るはずだ。


「俺ァ、お前とやり合うつもりはねェよぃ」
「知ってるわよ、そんな事」
「だったら」
「あんたはすっかり忘れちゃったのかも知れないけれど、あたしはちっとも忘れちゃいないのよ」
「…」
「許すつもりも、ないわ」


彼女が自分の元から離れた時、もう随分昔の話になる。
互いにもっと若かったし、正直なところ頭も悪かった。
感情の抑制も出来ず、その癖、素直にもなれなかったあの頃の自分は
彼女を手放す事も出来ず、だからといって縋る事も出来ずに
彼女以外の全てを壊した。仲間だとか大事なものだとか諸々だ。
多少なりとも後悔はしたが、今更どうする事も出来ない。
全てを失くせば彼女が戻ってくるだろうと、
間抜けな心で待っていたが彼女は戻らず―――――


「だから、今頃迎えに来たってわけかよぃ」
「随分、時間がかかっちゃったけど」
「…いい加減、忘れろぃ」
「!?」
「済んだ事じゃねェか」


最低だと思いながら、今更償う事も出来ずそう言いのければ、
傲慢な彼女の眼差しが僅かに潤んだもので、
こいつは取り返しのつかない事になってしまったと腹を括る。
何もなければこのまま終わらせられたものの、
どうやらそういうわけにもいかないらしい。
ちょっとだけ揺れる思い出を飲み込みながら一歩を踏み出せば、
こちらも一歩を踏み出した彼女の頬を涙が伝った。


(きみを苦しめるのは)(この俺)


拍手、ありがとうございました!
第六十三弾はマルコでした。
何故かマルコが酷い男に。

2010/12/09