暫くぶりだと声をかけられ、振り向く事に抵抗を覚えた。
聞き覚えのある声だ。それも、酷く懐かしい。
過去がいよいよ追いついて来たのかと思えば目の前は遥かに真っ暗で、
だからこそ振り返る事が出来なかったのだ。何故。どうして。
行き先など告げず、誰も知らないはずのこの場所にどうしてマルコが。


あの大きな戦争が終わり、二年ほどの歳月が経過した。
最初の半年は奔走し、まず居場所を探した。そうして暮らす。
これまでの全てを忘れ、全てを捨て屍のように生きる。
四季を見ずにすむようにしたのは思い出が暴れだすからだ。
全ての季節にエースとの思い出がしがみつき、一向に忘れる事が出来ない。
思い出すのは億劫で、それを忘れるのも億劫だ。
何気に傷ついている心は無駄だし、それでも捨てきれない自身に腹が立つ。


「随分、捜したよぃ。
「何よ」
「戻るぜ。みんな、待ってる」
「みんなじゃ、ないでしょう」
「…」
「だから戻らない」


振り返る事さえ出来ず、そんな言葉を吐き出す。
まるで呪いのように呟く。
あの日、どうしてこんな事になったのかが、まるで理解出来ず、
このマルコに食ってかかった。


あんたの言う事なんて全部嘘、信憑性なんてない、当てにならない。
どうしてこんな事になったの。
これで全てが終わりなの?ねェ、嘘でしょ?


膝をつくの背に手を回す事も出来なかったマルコは、
返す言葉も持たず只、こちらを見下ろしていたのだし、皆もそうだ。
馬鹿みたいに流れる涙をそのままに、
どうしてこんなにも手ごたえがないんだと思っていた。
エースも親父も死んだ。だから、もう、みんなは。


「このまま帰ってもいいが、お前はどうする」
「…」
「こんなトコで、一人ぼっちで」


いい加減にしろぃと吐き捨てたマルコは、依然この部屋にいるわけで、
彼の優しさを受け止める事も出来ず、さよならも言えずにいる。
いよいよ振り返り、何事かを呟かなければならないだろうか。
二年ばかりの歳月が経過しても、言葉一つ纏めきれないでいるのだ。
だからといって、このままマルコが部屋を出て行く展開は決して望まない。
どうしていいのか分からないと、辛うじて吐き出せば、
いよいよ面倒になったマルコが大きな溜息を吐き出した。


心無い本音


拍手、ありがとうございました!
第六十五弾はマルコでした。
まあ、まさかの暗い話なんですけど…
拍手なのにごめんな…。


2011/2/16