この冷えた室内で対峙するには幾分役不足なのではないか。
両手両足には海桜石の錠がつけられている。
あの男が触れる道理はない。他のクルーがしたのだろう。
故に全身が非常に重く、
顔をテーブルにつけたまま辛うじての呼吸を保っている。


何故この腕は、身体は白い包帯で彩られているのだろう。
こんなものは生活の一部にないはずだ。
何かを守るようなものは何もない。
だから、こんな風に命を救われるような真似は受け入れ難い。


いや、命一つを救われただけでこれから先の方が格段辛いのかも知れない。
そう考えればなんとなくだが理解出来た。


「…具合はどうだ?」
「…」
「峠はこえたからな。命に別状はないはずだぜ」
「だから、何」


口を開く事も、返答を考える事も非常にだるい。
強い薬を打たれたような感覚だ。何も考える事が出来ない。
生きてるのかどうかも余り分からない。


「お前を助けたのは俺だ」
「それで」
「言っとくが、こんなやり方は俺の趣味じゃねェ。只、道理だからな。だから、俺はやってる」
「だから、何よ」


このまま仲間になれ、だとか奴隷になれ、だとかそんな話をするのだろう。
殺さなかったという事は利用価値を見出したという事だ。
いいように使われる道を選ばず、先人達は死んでいった。
言う事を聞かなければ今のように強い薬を打たれ、
飼い殺しの状態でこのまま暮らすのだろう。


「あんたのいいようにしたらいい」
「…何?」
「けど、薬を抜かなきゃ使い物にならないし、薬が抜けたら舌ァ噛んで死んでやるわ」


回らない頭でどうにか搾り出し、半ば眠った状態で口を開いた。
途端に機嫌を悪くしたローが席を立つ。椅子が倒れた。
お前に選択肢はない、だとか四の五のぬかすと殺すぞ、だとか。
まあ、その辺りの言葉を囁く。
きっとすぐにこちらに近づき、髪でも掴み耳側で囁くだろう。


終わらない夜のうた






拍手、ありがとうございました!
第六十八弾は又してもローでした。
しかもこう…何てローだ。


2011/4/30