疲れたのだと、本心をそのまま伝えただけだ。
この生き方に疲れたと、秒ごとに命を攫われかける興奮に、
何故生きているのか不思議にさえ感じる平常に疲れたと。
彼は至極不思議そうな表情をうかべ、それはまるでそう、
まったくちんぷんかんぷんだと言わんばかりの面構えで小首を傾げた。


第一声は「どこか具合でも悪いの?」
そして心の底から心配だと告げる。
俺にはしかいないと嘯くあの瞬間と同じだ。
そして眼。
裏の裏まで見透かそうと勘繰るその眼差し。


懲り懲りなのだ。
こういうもの全てに疲れたというのに、当の獏には当然のように伝わらない。
まぁ、伝わる道理はハナからなかったわけだし、
これら全てを拒絶するという事は、獏という男そのものを拒絶する事と同義だ。


「ねぇ、」
「じゃあ、何を賭ける?
「…」
「俺は…俺はねェ」


総てを賭けようか。 俺の総てを。
リスクとレートばかりが跳ね上がり、
気付けばとうに引き返せないところにまで堕ちている。
欲をかければ幸い、気づかぬ内に引きずり出される道化よりは幾分もマシだ。
果たして、己はどちらか。


「賭けるものなんかないわ」
「あるでしょ」
「ないわよ」


これ以上、あんたに差し出せるものなんか何もない。
視線を外したままそう言えば、背後で彼の小さな笑い声が聞こえた。


嘘つき。
そう嗤った。





嘘しか信じられない退廃





拍手、ありがとうございました!
復活第一弾、トータル第八十弾は貘ちゃんでした。
あの煌びやかさに骨抜き。
2015/09/10