「…へぇ」


今日もなんだ。
思いがけず一人呟いた。


ファーストコンタクトはひと月前。
公園のブランコに座り泣いている彼女を見つけた。
こんな時間に一人で何してるの、
だなんて人のよさそうな言葉を選び声をかけたが、
本音はそこらの男と変わらない。
別に俺だけじゃないだろ、そういうの。


泣いている彼女が、その横顔がとても可愛かったからだ。
それこそみんなそうじゃないの?そういうので声かけるでしょ?
そんなとこで泣いてちゃダメだよ、名前は?
こんな時間に一人でいちゃ危ないでしょ。


自分の事は棚に上げ、泣く彼女の顔を覗き込みながら優しく囁く。
ねえ、寒くない?もしよかったらウチに来ない?
そこのコンビニで温かいものでも買ってさ。


誰がどう見ても下心丸出しの言い分に軽く頷くのだから、
彼女もこれは出来心なのだと理解しているはずだ。
家代わりにしているホテルの一室で軽いキスを交わし
涙が乾くまでという暗黙の了解のもとセックスをした。
彼女は最後まで名前を言わなかった。


次は二週間前。
同じ場所で泣いている彼女を見つけ、同じように近づいた。
開口一番、そんな男とは別れちゃいなよと囁く。


「な〜にしてるの?」
「…」
「また、喧嘩したの?」


未だ明かされない涙のわけに興味はない。
彼女の心が乱される方法が知りたいだけ。
こんなやり取りはこれで何度目かで、
別にこの女が初めてなわけでもないし、特別なわけでもない。
だから。


「貘」
「!」
「早く部屋に連れて行ってよ」
「やだな…俺、名前教えたっけ…?」


この瞬間から駆け引きに変わり、淡い感情など消え失せる。
こんな事をしても何にもならないと知ってはいるのに、
恐らくは脳の髄まで侵されているのだろう。


性分なのだと、知っていた。










奪われるだけの虚構





拍手、ありがとうございました!
復活第八十一弾もまさかの貘ちゃんでした。
恋とかできない男。

2015/09/22