余計な事を考える余裕さえない。
窓ガラスの割れたジープの助手席でひっくり返っているエースは、
すっかり温くなったコーラを口に含み吐き出した。



当然エアコンなんて壊れていて、兎にも角にも暑くて仕方がない。
こちらは半裸だからまだいいが、運転をしているはどうなのだろう。
どうせなら裸でも構わねェんだぜと軽口を叩きたいところだが、
こんな平野のど真ん中に放置されるのは生死に関わる。
故に黙って温いコーラを含むだけだ。



「そろそろ宿を決めねェと」
「宿ったって、どこにあんのよ」
「…どっかだ」
「どこまで走ってもキリがないわ」



の言う通り、どこまで走っても恐らくキリはない。
果てしない平野が延々と続くだけだ。
海なんて欠片も見えず、我々は迷ってしまっているのだ。
そんな事は昨晩の小汚いモーテルで解り切っていたのだが、
素知らぬ振りを決め込んでいた。



よくない煙が充満した小部屋で思い出を走馬燈にして楽しんだ昨晩。
済し崩し的に一つになりはしたものの、
酔いの醒めたは明らかに後悔していたし、
そんなつもりではなかったのはエースだって同じだ。
冷たい水を流し込み、シャワーで全てを洗い落としあの部屋を出た。



「…戻らねェか?」
「えっ?」
「昨日のモーテル」
「…」
「多分、俺もお前も」



忘れモンがあると思うんだが。
目を閉じたままそう言えども彼女の返答はない。
ただ、車体は大きく揺れ、きっとはハンドルを切った。
無言のまま、思い出を辿るように同じ轍を深く刻む。



ぼくが残した言葉





拍手、ありがとうございました!
復活第八十四弾は久々過ぎるエース拍手でした。


2015/12/01