汗とアルコールの匂いが充満する部屋でぼんやりと目覚める。
昨晩の喧騒をそのまま持ち込んだような散らかった部屋に二人いる。
どうやら雨が降っているらしく、
カーテンの隙間から差し込む青白い光は時間の感覚を麻痺させる。



この男と寝るつもりはなかった。
事後に言うなんて一番最悪だと理解はしている。
きっと、伽羅も同じ気持ちのはずだ。



つい先刻、先に起きてシャワーへ向かった伽羅が戻って来るまで、
そんなに時間がない。
今更どんな顔を下げて話をすべきなのだろうか。
出来心だなんて、そんな。



「…思ったよりズルい女だな、お前」
「!」
「いいのかよ、こんな事して」



腰にバスタオルを巻いたままの姿で伽羅は戻って来た。
恐らく昨晩触れたはずの逞しい身体だ。



「出来心ってヤツよ」
「ハッ」
「お互いさまでしょ」
「そりゃ、どういう意味だ?」
「えっ?」
「俺は出来心なんて言わねェが」



お前にとってそうなら、そうなのかも知れないな。



「断らないなんて」
「据え膳食わぬは男の恥って言うだろ」



半分嘘で半分本当だ。
の婚約者だという男を知っていた。
どんな男かも知っていて、重大な決断を迫られている事も知っていた。
嫌でも噂は耳に入るのだ。



無責任なあの男のように嘘八百並べ立てるつもりもないし、
の人生を背負うわけでもない。
そんな事が出来るような生き方はしていないはずで、それはも同じだ。
似合わない真似をするんじゃねェよ。



時間の分からない部屋に閉じ込められた二人は、思いさえあやふやで思惑も何もない。
選べない。
只、起こってしまった事態を事実だと認めるだけで、
後発的に派生した胸の高鳴りの名前さえ定まらないままだ。



故意に刃向かう





拍手、ありがとうございました!
復活第八十五弾は満を持して伽羅でした。


2016/1/18