愛だとか恋だとか、そういった類のものが一切理解出来ない有様だ。
欲しい気持ちとは又、別なようでどいつもこいつもやけに重宝している。
少なくともエースの目にはそううつる。



飲み屋で気に入った女に声をかけ、そのまましけこむも、
その女に男がいて因縁をつけられる事も度々だ。
そういったトラブルも含めセックスの一環だと承知している。
軽めのアトラクションのようなものだ。



だから今、に遭遇して酷く動揺している。
初めて遭遇したのは、海軍将校の女に手を出してしまい(無論、知らずにだ)
割と面倒な展開に見舞われた時だった。



随分と嫉妬深い男だったらしく、当の女はすぐに殺され、
エースも這う這うの体で逃げ出したのだが頭数が多く身動きが取れない。
やれやれこいつは参ったねェと路地裏にしゃがみ込んだ時だ。



あんたこんなところで何をしてるの。
女の声が聞こえる数秒、追手の声も近づく。
こちらの様子に気づいていたのだろう。
ドアを開け匿ってくれた。


その序でに手を出そうとした己の人間性は問わない。
軽くあしらわれて仕舞いだ。



その次に遭遇したのは、泣いている彼女だった。
その隣にいたのは少しだけ名の知れたとある海賊であり、
嫌な場面に出くわしたと思った。



「…俺ァ、確かに節操のねェ男だが」
「…」
「流石に顔見知りの女にゃ手を出さねェ」
「別れたわ」
「…」
「だから何も気にしなくていいのよ」



それもどうだか、だとかだからどうした、だとか。
今この瞬間別れただけで、翌朝には元鞘に収まってるんじゃあねェのか、だとか。
よくあるやり取りじゃねェかとこちらはそう思うが、果たして。



「いやぁ、そいつは変だ。そもそもが俺に一切興味がなかったはずのあんたが、何を今更」
「…」
「そういうやり口の男だって、分かってんだろ」



あんたに身売りをさせるような男だ。



「違う、違うわ…そうじゃない」
「逃げてェのか」



ちょっとだけ心が揺れ動いた、それを知られた。



「何も求めちゃいないわ」
「…」
「只、この夜を一人で過ごしたくないだけよ」



だからお願いと胸元に額をつけ呟くを抱き締めないわけにもいかず、
面倒な展開になってきたぞと腹を括るわけで、やはり何一つ成長などしていない。
この女は恐らく餌で、何だかんだと厄介事に巻き込まれるはずだ。



だからもうこれ以上優しく囁くなと唇の一つでも塞げば、少しは気が楽になるのか。
このままではやけに乱暴な気持ちでこの女を抱く事になりそうで、
酷く気が滅入るが他に手はない。



ドアに銃口を向けたまま口付けた。




あなたの罵声





拍手、ありがとうございました!
復活第八十九弾はエースでした。
自業自得だと自覚済。


2017/07/02