寝具の中でしか視線を合わせないこの男の真意は、
いつまで経っても分からないままだ。
足繁く通うわけではないが、忘れた頃に顔を出す。
多少は気に入られているのだろうか。



その実、この置屋に潜入している身としては予想外の厄介事であり、
邪見に扱う事も出来ず、だからといって下手な真似も出来ず、
随分と面倒な時間を共有する事となる。
この男は知っているのだろうか。



「…それ」
「こいつが何か知ってるとなると、ロクな女じゃあねェな」
「そんなもの持ち込んで、ばれたら事よ」
「お前が黙ってりゃあいいだろ」
「あたし、やんないわよ」
「どうして」
「どうしてって」
「支障が出るか?」
「え?」
「お前の、仕事に」



支障をきたすってのか。



「あ、んたの後にも客が」
「そりゃあ嘘だ」
「…」
「俺は」



お前がどこの馬の骨だろうが構いやしねェ。
只、俺と、この俺と一緒にいる間は払った額だけの対価を差し出せ。
高杉はそう言う。
建前としてそう言う。



「ここで揉めりゃあ、困るのはお互い様だぜ」
「…」
「泥船にようこそ、



一緒に沈もうぜと囁く高杉の横、
御法度の薬を手に動けないがいる。



決断を出来ずに躊躇していれば、
俺もお前も下らない人間だぜと窘めるように呟く男が
こちらを覗き込んでいた。




青空をかけるこうもりの翅





拍手、ありがとうございました!
復活第九十弾は高杉でした。
隣に潜む魔。


2017/07/24