捕らえた女は酷く憮然とした表情でそこに座っている。
幾分手こずった為、最終的に気を失わせる程の一撃を喰らわせたからだろう。
唇の端が切れており、僅かに腫れてきていた。
反射的に応急処置をしたくなったが我慢する。
そんな場面ではない事位、互いに承知のはずだ。



「…お久しぶりね、ロー」
「そうだな」
「何のつもりか知らないけど、こんな真似して」



只じゃ済まないわよ。



「後ろ盾を失くしたお前なんて、何でもないぜ」
「…そういう事ね」
「俺は一度だってお前を忘れた事がねェ」



今この瞬間だってそうだ。
勢いあまって椅子を蹴り上げた。
固く乾いた音を響かせ転がる。
心ひとつ動かないの横で弾け止まった。
暫く船には近づくなと告げてある為、多少の騒音程度では誰に知られる事もない。



「あんたを捨てたあたしを、まだ恨んでるのね」



だけど仕方がないじゃない。
女は言う。
ドフィとあんただったら、どっちを選ぶかなんて決まってるでしょう。


おふざけの様に絡み合った指、数か月停滞した酷く厚い雨雲。
窓に叩き付ける雨粒の音をよく覚えている。
二人、嘘のように惹かれあい身を絡めたはずなのに、いつの間に心は離れた。


遠出から戻ったドフラミンゴは何かを察したようだが言及せず、
遊びはほどほどにしろよと笑ったのではなかったか。
それ以来一切の接触はなくなり、
持ち去られた心は触られる事さえなく放置され、じきに埃塗れになった。


「だって、どうするのよあんた。又、同じ事を繰り返して」
「…」
「ドフィはすぐに戻るわ。その時、」



選ばれないのはあんたよ。
の唇が言葉を切った瞬間、椅子ごとその身を床に押し付けた。
女の足がローの腹を蹴る。
手の甲で強かに頬を打てば血の混じった唾液を吐き捨てた。



「根競べといこうじゃねェか」
「…ロー」
「こっちだって願ったりだ。俺とお前、どちらが先に根を上げるか」



消耗戦と洒落込もうぜ。
ハナからそのつもりだったのだと嘯くローは少しだけ興奮しているように見えたのだし、
恐らくそれがこちらの罪なのだろう。
ちょっとの火遊びのつもりで手を出した浅はかさが、ここにきて自身の首を絞めるとは。



ローの爪が傷口を抉った。
あの日と同じ眼が、こちらを見ていた。


ジョーカーは我が手中





拍手、ありがとうございました!
復活第九十二弾はローでした。
ドフラの女に手を出した若ロー。


2017/08/27