足繁く通うわけでもなく、あの男は気まぐれに顔を出す。
こちらに利用価値を見出しているからだと、そんな事は分かっているわけで、
それなのに少しだけ心を揺さぶられている、
たったそれだけの事実に怯えているのだ。


日の高い間は、こちらもそれなりに忙しくしている為、余り気にならない。
接待の場としても利用されるこの店に、
稀に軍の人間が顔を出す際、少しだけ思い出す程度だ。


確かにこの店を出す為に、金を融通してくれた男が数人いるわけで、
その内の一人が花沢中将だった。
それが関係しているのか、尾形は最初、素性を隠し近づいて来たわけで、
目的は別にあると考える方がいいのだろう。


最初は距離を起き、徐々にゆっくりと近づく。
耳障りのいい言葉を巧みに操り、すっと入り込んで来た。
幾度か顔を合わせた事もあり、油断もしていた。


尾形が求めたのは、秘密の共有と場所の提供だ。
必要最小限の情報を手渡し、どういう意味かわかるよな、
そう釘を刺す。


接待の行われる離れに隣接した物置に潜み、何かしらの情報を得ているのだ。
余りに恐ろしい事が起こっている気がし、一度として声をかけた事はない。
一仕事終えると、食事を摂り少しだけ寛ぎ、あの男は帰っていく。


共犯者である事に甘い疼きを感じてはいるが、
守り切れない秘密を抱ける程の強さはないと分かっている。
もう少し、こちらから踏み込めば、尾形は喜ぶのだろうか。
より一層深みに嵌るか。


こちらの生活も守らなければならないし、身の安全も出来れば確保したい。
だから毎度、ここを出て行く尾形の背を見送り、
一頻りの安堵と、幾ばくかの淋しさを感じるだけなのだ。



人生の攻略本なんていらない





拍手、ありがとうございました!
復活第九十五弾は尾形(明治)でした。
簡単にいうと、ゴールデンカムイに嵌っているからだ。
全てを利用できる男。

2017/11/12