今思えば確かに色々と不思議な点はあったような気がする。
もうここまで、完全に後戻りが出来なくなった段階で気づく不穏だ。


つい先刻まで雨が降っていたようで、レンガが滑りやすく一歩怖気づく。
この洋風の庭園は、逢瀬に最も適した場所だ。
だから、最もよくない場所になる。


こんな場面を万が一にでも見られたら、
どこか遠くの資産家に無理矢理嫁がされるだろう。
元々、ここ半年の間に良い縁談を組まされる予定なのだ。
その生き方に一切、異論はなく、当然の流れだと思ってはいたが。


白いバラの咲く場所が約束の地だ。
何度も何度も、そこへ出向く。


それはよくないのだと、こんな真似はよくないのだと頭では理解出来ているはずだ。
これまで、誰の言う事にも逆らう事無く生きてきた。
全てに受け身で、特に不満もなかった。
この男に会うまでは。



「百之助さま」
「…やあ、



父親が血相を変えて激怒した男の名を囁く。
生まれて初めて怒られた一件だ。


だけれどもう遅い。
何もかも全てが手遅れであり、既に心は持ち出された後だ。
理由を一切告げず、父親はの自由を限りなく制限した。
だから今、これは出奔に近い真似だ。


昨晩、父親と母親が囁き合っていた悪意を耳にした。
あれは真実か。


あれは俺の子だ。
父親はそう言った。
母親は何も言わず、それが酷く不気味だった。


その言葉が伝える真実に気づけない。
今こうして抱き締め合う二人に必要でない。
何故尾形が近づいて来たのか、その真意も分からない。
持ち出された心がどうなったのかも、その行方も、結末も。


この逢瀬の場は余りに静かで、
世界に二人だけしか存在していないのかと、そんな錯覚に襲われる。
尾形がこちらの名を囁き、とりわけ真摯そうに睦言を囁く。
もうすっかり身を任せ、どこまでも堕ちていけばいいのだと、
そんな事を願ってしまうが、頭の隅の方、心の奥の方で警鐘が鳴る。


ここまで堕ちて、心を奪われていても、
それはきっと私だけで、貴方は違うのでしょうねと、
酷く冷静な心が聞きたがるが、臆病な本心がそれを阻む。


少なくとも尾形の心は持ち出せていない。
だからきっと、恋をしているのはこちらだけなのだ。



空っぽのハート空っぽのボク





拍手、ありがとうございました!
復活第九十六弾も尾形(明治)でした。
前に何か話してた、、、花沢中将の娘に手を出す尾形。
療養してて家にいなかったとか、そんな後付けしてください。


2017/12/07