もうこれで終わりにして欲しいのだと、はそう言う。
何を今更、そう思う反面、楽にしてやりたい気持ちも存在する。


確かにはこれまで、随分と役に立ってくれた。
人生の内、最も輝く十年を全て捧げ、こちらへ尽くした。
身も心も全てを捧げた。
見返りは求めずに。


それは酷く不自然な話だ。
人は目的もなしに動かない。
何も求めず、まるで忠犬の如く土方に尽くした
余りにも不自然な存在であり、
今になって正気に戻ったとでも言うつもりか。


わざわざ土方の元へ来てまでそう告げるは、
一切、何一つの見返りを求めなかった。
否、求める事が出来なかった。


いや、違う。
求めていたが、ついぞ手に出来なかった。
こちらも悪いとは思いつつ、気づかない振りをしていた。


若い娘が時折、罹る流行り病のようなものだ。
献身的に人生を消費するを横目で見て、そうして又、視線を戻す。
それの繰り返し。


互いに何も言わないまでも、少なくともこちらは確信犯だ。
尽くす女を目前にして気づかない振りを決め込んでいたのだ。



「…お前には苦労をかけたな、
「…」
「好きにするがいい」



こいつは餞別だと、あらかじめ用意してある箱を渡す。
誰かの為ではなく、誰でもの為に用意させたものだ。
中身はそれなりの金額が書かれた小切手。
こちらの気持ちを具現化した代物だ。


大抵の娘はそれで満足する。
世の儚さを憂う時代はとっくに過ぎた。


箱を受け取ったは一度だけそれに視線を落とし開けない。
まるで、拒否でもするかのように。



「明日は来ないぞ」
「これが最後なら」



最後に一度くらい抱き締めてくれと呟く。



「そうしてどうなる」
「私が次へ進める」
「なら―――――」



俺はそれをするわけにはいかんなと、土方はそう言う。
最初から一切、乱れない呼吸で、肩ひじを肘置きについたままだ。
いつものあの刺すような眼差しでこちらを見据える。


の心が既に限界を迎えている事は、とっくに承知だ。
自分と大差ない年齢の子供を管理し、こちらへ尽くした。
件の組織を壊滅させた際の、こちらのやり口に我慢ならなかったのだろう。
同じような娘の心を蹂躙したこちらを許せないのだ。


だけれど心は酷く裏腹で、この局面で振り切る事が出来ないでいる。
お前の心はここにある。
そんな事は、知ってたはずだろう。



「酷い人」
「あぁ」
「触れもしない癖に」



私を死ぬまで飼殺すつもりなのかと呟く彼女は、
口でこそそう言うが、きっと満更でもないはずだ。

そういう風に躾けた。


はとっくに後戻り出来ない状態なのだ。
席を立ち、ゆっくりと近づく。
足元を見ているに触れ、悪いが次の恋は暫くお預けだと囁いた。




蜘蛛の糸に絡まった蜘蛛





拍手、ありがとうございました!
復活第九十八弾は初土方さん(金カム)でした。
KING FOR A DAY別軸の話です。
あの話の土方さんです。
分かり辛い!
過去篇(組織壊滅)顛末後の話 土方さんの部下ですね。


2018/1/18