気づかない振りしてくれたのね。
はそう言い、いつものように笑んだ。


あの、どうしていいのか分からなくなると笑う癖が又、出たのだ。
いつだっては本心を口にせず、うわべだけでその場を乗り切る。
それを許す周りが悪いのか、そんな手を使うが悪いのかは分からない。
今のところは。


しとしとと一晩中、冷たい雨が降り続いていたわけで、
客の呼び込みも侭ならない。
客足が遠のく一方だぜと他の店の黒服たちと愚痴を零しあい、夜空を見上げていた。


今回の店は男性客に対する完全な性的サービス店の為、
一人捕まえるとバックがでかい。
故に随分と気合も入っていたが、生憎の天候だ。
どれだけやる気があろうが、肝心のカモがいなければ金にはならない。
ネオン街は青い雨に汚され、閑古鳥が鳴く始末だ。


それでも契約の時間までは働き、
最低保証額だけでも持ち帰ろうと粘ったが為に、見つけてしまった。


店の斜め右奥にある、連れ込み宿から出て来るの姿を目にしてしまった。
挙句、と目が合うものだから最悪だ。


そんな時でさえも、はやはり微笑む。
隣にいた男は桂の方を見て、少しだけ小首をかしげたような気がする。
見知らぬ男だった。



「見てみぬふり、してくれたのね」
「してくれたというか、そうせざるを得んだろう」
「どうせなら、続けてよ、その猿芝居」
「…銀時にか」



お前たちの関係がどんなものなのかは知らんが。
桂は言う。


俺を巻き込むな。


お前はいつも後悔ばかりしているじゃないか。
そうとも言った。


正直なところ、何故こんな真似を繰り返すのか分からない。
あの男がまるで動じないからだとか、
どうでもいいんだよと束縛の一つも見せないからかも知れない。


いや、確かに実際、
銀時の目の前で他の男とセックスの一つでも見せつければ、
流石にあの男も機嫌を損ねるかも知れないが、
計り知れない場所で行われる全てに無抵抗を貫くタイプだ。
故に知らなければいいのだと言う。


薄っすらと味の違いに気づいても尚。
お前が俺を好きだってんなら、それだけでいいじゃない。
そう言う。



「…まあ、あたしだって分かってるのよ」
「何がだ」
「そう言うって事は、そうだって事」
「!」
「あいつだって同じ事やってんのよ」
「お前たちは馬鹿なのだな」
「そう」
「似た者同士、いい事じゃないか」



互いの猜疑を払いも出来ず、あらぬ方向へ身体ばかりが向かう。
心裏腹というやつで、だけれどもう二度とあの頃の二人には戻れない。


腹の内を曝け出しても傷口が広がるだけで、心は埋まらない。
要は取り返しのつかない状況なのだ。
それに気づいているから確信をつかないように、こんな事を繰り返している。


この町にお似合いの二人だなと呟く桂の隣、
止まないわね、雨。
はそう呟いていた。




空腹に喘ぐ路地裏の猫





拍手、ありがとうございました!
復活第九十九弾は銀時(桂しか出て来ないが)でした。
どういうことなのか。
駄目な二人と傍観者。

2018/02/02