この店は夜景が売りでね、
だなんて使い古された決め台詞をあえて口にする。
まるで前菜のように、又は前戯のようにだ。


遥か彼方、眼下に広がる首都の明かりを眺めながら
酷く生臭い会話を楽しむ。


こういう店を幾つもリストに入れ、都度都度の女ごとに割り振っていく。
そんな細かな作業が実は嫌でなく、
どうやら己は相当に神経質な人間なのかも知れないと思い出したくらいだ。


今日はこの女をと狙った相手であれば誰でも構わず、
その点、まるでこだわりはない。
自分で定めた目標を達成出来ればいいわけで、
そうなると何の為に金と時間を費やするのかという問題が生じるのだが、
恐らく理由なんてない。
そんな有様では、まるでセックス依存症だなと、他人事のように思った。


西麻布のラウンジにいてもおかしくないようなを連れ、
ここ最近で一番気に入りの店へ赴く。


贔屓目に見ても十分に美しい夜景と、
見た目よりも強い酒で彼女をもてなす。



「こういう事、しないと思ってたけど」
「どうして?」
「尾形さん、人気だから」



だなんてお世辞込でも余りある発言だ。
どう考えても、お前の方が。
言葉に出さずそう告げる。


掃いて捨てるほどの誘いを断り続ける女を
落とす快感は何ものにも代えがたい。
だからって心が今ここにない理由にはならないだろうが。



「知ってます?」
「?」
「あたし、酔わないって」
「へェ」
「尾形さん、そんなに強くないでしょ」
「どうかな」
「勝負してみます?」



なんて余りにも露骨な誘いを受けない理由もない。
まあ、こんな店に同席した時点で暗黙の了解は完結だ。
限られた夜の過ごし方を選ぶ他ない。
泣いても知らないぜ、そう囁きグラスを鳴らす。


いやだ、怖いな。
赤い舌先はそう笑い、
唇を舐め尾形を興奮させる道具に変わるのだ。




逢魔ヶ時





拍手、ありがとうございました!
第百一弾は尾形(社会人)でした!
最近、現パロ社会人書いてないなあと思い
そして尾形も書いてないような気がしたので
尾形にしてみました。
度々出て来る外資系リーマン尾形です。


2018/05/07