迎えになんか来てくれなくてもよかったのに。
はこちらに背を向けたままそう呟いた。


ここはとあるタワーマンションの一室だ。
大半の部屋は投機目的で抑えられており、
部屋数の五分の一程度の住人しか住んでいない、
ここ最近開発された地区に建ち並ぶそれ。


そもそも、一般人にはこのマンションの敷地に入る事さえも侭ならない。
一先ず五段階のセキュリティー認証が必須となる。


某人気ベンチャー企業が借りているフロアもあるらしく、
つい先日、TVで特集が組まれていた。


そんなマンションの一室に何故、鯉登がいるのか。


それにしたって流石に地上50階は見晴らしがいい。
全面窓になったフロアからは大都会が遥か眼下に広がり
まるで空を飛んでいるようだと思った。


それに引き換え、この室内の惨状はどうだ。
備え付けのソファーは切り裂かれ、壁には燃やしたような跡も見えた。
往年のロックスター達が全盛期に繰り広げていた類の暴れ方だ。
現代にはそぐわない。



「お前、怪我は」
「ちょっと打ち身とか、そのくらい」
「大丈夫なのか」
「…」
「病院に」
「大丈夫だって言ってるでしょ!」



こちらを振り返らないは酷く感情的で、
だからもう何一つ大丈夫ではないのだと分かる。


この女は、こちらがふざけるなと思う程、感情には無頓着なはずで、
人の心にも自分の心にも興味がないのだ。
そんなが声を荒げる程、感情的になっている。



「そこで待ってろ、。車を用意する」
「余計な真似しないで」
「黙ってろ」



側からのSOSが入ったのは昨晩の事だった。
よくない男達に連れて行かれたのだと、
よくつるむ女たちが鯉登の友達に連絡をして来たのだ。


よくよく聞けば、アメリカに拠点のあるベンチャー企業の社員だったらしい。
数日しか滞在しない為、余りリスクも考えない奴らだ。
こういったセキュリティーのしっかりとした部屋を使う為、外部に漏れない。
漏れない故、よくないものを散々と使う。
性質の悪い男達だった。


その一報を耳にし、とりあえずの携帯に連絡をするが一切出ない。
男達の一人から貰ったという名刺から場所を特定し、
この部屋に突入したのが少し前。


男達の姿はとっくになく、この退廃した室内に彼女だけが取り残されていた。
何があったのかは一目瞭然だ。



「やつらの身元は押さえてる」
「…」
「行くぞ」



あたしよくない薬やっちゃって一人で歩けないのよと呟くの腕を取る。
この、身の置き場を知らない女は危なっかしくて見ていられない。


互いに人生なんてものに退屈さを感じ、
不感症気味な己に飽き飽きしているだけなのだ。




見上げた空の白々しさ





拍手、ありがとうございました!
第百三弾はKO鯉登(久々)でした!
高校生の頃の話です。
嫌な高校生である。

2018/07/15