そんなとこで何してるのお嬢ちゃん、だなんて声が聞こえ、反射的に顔を上げた。
ハチ公前に屯する癖は中々治らない。


スマホ一つで誰にでも連絡がつくにも関わらず、
こうして雑多な人々の中に紛れる理由は未だ分からない。
友達はそれなりにいるし、セフレみたいな彼氏未満の男もそれなりにいるし、
そもそも彼氏とは三日前に別れたばかりだし、
だからってそんなに悲しいわけでもない。


スクランブル交差点を無尽に行きかう人々の群れは留まる事を知らず、
その流れを眺めるだけで時間が過ぎてゆく。


来週のクラブイベントも行くの怠いし、だからってバイトする気にもなれない。
そういえば明日はあいつにパパ活やろうって誘われてたっけ。


てかもうさっきからLINEの通知がマジでウザいし、
どこか電波の届かない場所に行きたい。


そんな時だ。
顔を上げれば隣に立っていたおっさんがこちらを見下ろしていた。


明らかにエンコー目的のおっさんだし、普段なら速攻シカトなんだけど、何ていうの。
こういうの。気分っていうの、これ。魔がさした、みたいなそんな感じ。


何よおっさん、エロい事したいの。
そう返せば、一瞬呆気にとられたような顔をして、おっさんは笑った。









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おっさんと二人、辿り着いたのは道元坂にあるホテルで、
時間帯的にもそれなりの値段の部屋にイン。


こういうの初めてなの、だなんてアホな事を聞いて来るおっさんに、
そんなわけないじゃん、てか、おっさんこそ初めてなの。
そう返せばどうだったかなぁ、だなんて曖昧に濁す。


見た目的にもタヌキジジイっぽい。
でもまあ、ホテル代は前払いだし、最悪ヤリ逃げされてもいいって気分だし、
何だか今日はそんな気分だからとりあえず先にシャワーを浴びてベッドイン。
おっさん特有のべたつく愛撫に辟易しながらも一発抜いてピロートーク。


多分あたしは、きっと、そんなのがしたかった。
バカだよね。


おっさんはひたすら頷くだけで、別にそんなのはどうでもよくて、
あたしが話してる内容も本当に取り留めはなくって、
だからか途中でやけに恥ずかしくなっちゃって、
おっさんこれ初体験なんじゃないの、だとか話を振るんだけど
相変わらずのらりくらりと濁すだけで、そういえば何一つ明言はしない。


ねえ、おっさん。結婚してるの、子供は?仕事ってリーマン?
全部曖昧、どうだったっけ、だとかそんな感じ。


朝まで寝てなよって言いながら服を着るおっさんを横目に、
名前は。そう聞けば、門倉。おっさんはそう言ったけど、それも本当かどうか分からなくね。


それだけやけにはっきりと断言して、
おっさんじゃなくて門倉さんって呼んでよ、だなんて言うもんだから、
そんなのやけにエモいじゃんって返せば、
やっぱおっさんはエモいの意味も分かってなくて笑う。


またね。そう言って部屋を出て行くおっさんの後姿を見送って、
正体の分からないエモさを抱き締め眠る。
またね。だなんてLINEも交換してないし、番号だってそう。


だけどきっと明日もあたしはハチ公前にいるし、きっとおっさんもそこにいるんだろう。




弄んだつま先





拍手、ありがとうございました!
第百四弾は門倉看守部長(エンコ―)でした!
場所は渋谷です。

2018/10/09