Just fuckin' go




結局あの日阿含は(恐らく野生の勘が働いたのだろう)珍しく半日家にいた。その間携帯が光ったのは十回強。五回目辺りから流石に気分を害したらしい阿含は携帯を壊そうとした。着信を確認しなくても誰からなのかは分かりきっていたからだ、互いに。着信の相手―蛭魔の思惑もこうして縛りつける阿含の思惑も分かりやすい。だからといって が両者の気持ちなり思いなりを理解しているのかといえばそれは確実にない。何も考えたくはない、面倒くさい事情に巻き込まれるのは嫌だ。だからあえて流されている。どちらにも口先だけで愛していると言える。別にその二人だけに限らない。誰にでも言える。誰の事も愛していないからだ。いざこういう関係になったのは中学を卒業し別々の高校に進学してからだった。現在高校二年生。ようやく少しは落ち着いた。 の心の中、ドロドロとした黒い部分を知っている馴染みの二人は同じ道を別の角度から進んでいる。

「今度お前ん家行くぜ」
「今度っていつよ」
「いつだっていいだろーが、俺が行きてェって思った時だよ」
「何でわざわざ家に来んのよ」

の背中に走る傷跡を指先で何となくなぞれば嫌そうな視線を送られる。袈裟斬りに似た傷跡はあの時よりも随分色褪せている。

「ちょ、触んのやめてくんない」
「そういや随分金貰ったんじゃねーの」
「弁護士が管理してるから分かんないわ」
「俺お前と結婚しよーかな、死ぬまで遊んで暮らせんだろ」
「あんたと結婚って死ぬほど合わないわよね」
「そりゃお前も同じだろ」

ブラをつける の背中をぼんやりと見つめていた。 は一度死んでいる。その間際に居合わせたのは若かりし阿含と蛭魔―

「俺もっ回寝るわ」
「おやすみ」
「俺からの電話には三コール以内に出ろよ」

じゃなきゃ殺す。阿含の言葉に少しも笑わなかった は何も答えず部屋を出て行く。チカチカと光り続ける携帯と共に。足音を聞いていれば はどうやら途中で雲水に遭遇したらしい。相変わらず間の悪い男だと思った。






そう。
あの日は確かとても寒い、吐く息の白い日だった。カツアゲの為街を徘徊していた阿含と脅迫手帳を埋める為にその側にいた蛭魔のコンビは街の至る所で同級生に遭遇する。それが だった。阿含を恐れる輩や取り入ろうとする輩が多い中 は校内でも校外でも阿含の存在なんてどうでもいいような態度を取る。余り登校しない彼女は校内でも特別に浮いており色んな噂が付きまとう女だった。噂の信憑性は蛭魔の反応を見る限りでは皆無、しかし彼女はそんな噂をあえて否定せず誰も近づけなかった。

「・・・ありゃあ」

最初 の姿を見かけたのはそこそこに流行っているクラブだった。阿含の取り巻き達がどうしてもと言う為嫌々ながら出向けば彼女はそこにいた。制服も酷く崩して着ていた彼女だけれどその時の露出が多い刺激的な服装は のイメージを一変させるには十分だった。煙草をくわえたままボトルのビールを片手に気だるそうに身体を揺らす。クラブ内でも阿含の大きな姿は目をひいた。大勢の取り巻きがそれを目立たせる。群集を押し分け の側に近づく。 は宙を見ているだけで目の前に突如現れた阿含の姿なんて見ていなかったらしい。片腕を掴みようやく存在に気づく。

「・・・何?」
「よぉ」
「あんた―」

確か蛭魔とつるんでる。アルコールに取り付かれた彼女の目は阿含を見ていたのだろうか。只その時の彼女の発言が良くも悪くも印象付いた。それから色んな場所で に遭遇していく間に何となくヤりたいと思うようになり(その気持ちは最初からあったのだろうが)様子を伺えどもまるで空気のような彼女はつかみ所がない。あえて強気に出てみれば は別に怯える事なく拒否する事もなかった。
ヤった所で彼女面するわけでもなく以前とまったく変わらない に幾ばくかの不満を覚えたが面倒くさくない分よしとする。阿含が だけでないのと同じで も自分だけではなかった。それも途中までは許せたわけだ。数人の顔ぶれ―その中に蛭魔の姿を確認するまでは。


I'll Do Anything(Courtney Love)

しつこくも阿含で引っ張った自分がスゲえ。
つーかこの主人公はどんな中学生だったんだと。
こんな中学生はいねえ・・・!