Gimme love, love, loveすっかり毒気を抜かれた は言われるがままシャワーを浴びている。背後で を支えるように抱き締めている蛭魔は僅かに浮いたアバラを指先で撫で何事かをぼやいていたが耳には届かない。バスタブに湯を張るのは蛭魔が好きだからだ。普段ならシャワーだけで簡単に済ませる。先ほどから蛭魔は の肩に顔を埋めたままだし は目を閉じもせずシャワーを浴びている。裸だからといって全てを分かり合える道理もなければ隠していないわけでもない。だからこんなにも胸に穴が開いてしまうのだ。 の穴は背中から開いている。だから蛭魔は背中から抱き締める。これ以上零れてしまわないように。この女を守りきる事が出来るのは自分だけだと自負している。 を離さない術も熟知している。何も不備は、不安要素はないはずだ。それなのにどうしてこんなにも心もとないのだろう。 「蛭魔」 「・・・」 「座ろう」 ダラリとぶら下がった性器にしろ力ない身体にしろ同じだ。何か一つだけでも違う部分を見つけ出そうと皆もがいている。特別でありたいから。 「手術、しねェのか」 「めんどくさい」 「こんなモンいつまでも背負ってっから引き摺るんだろうが」 分かっている。形だけ変えたところで意味はないと。 「これがあるからあんたはあたしの側にいるんでしょう」 「くだらねェ」 カリ、蛭魔の歯がの肩を噛む。 「そういやどうなのよ、アメフト」 「突然何だ?」 「やってんでしょ?まだ」 「・・・まぁな」 この部分には決して近づけない。という事はとても大事なものなのだろう、蛭魔にとって。別に汚そうと思っているわけでもないし近づこうと思っているわけでもない。だから は変な話しちゃってごめん、だなんて呟き膝を曲げた。 所詮皆ある程度の位置で線を引く。どれだけ欲してもその線を越えさせる事はない。越えれば即邪魔になるからだ。その点阿含は最初から誰も近づけない分ギャップが少ない。ああ。蛭魔にしても同じか。 「らしくねェ」 「何?」 「んな、しおらしいタマか。テメエが」 背後から聞こえる蛭魔の声はとても杜撰でそれが酷く安心出来る。二度と優しい言葉は要らないのだ、そんなものゴミ以下に値する。信じる事は出来ない。信じる必要性を無駄に感じている。誰も要らない、自分自身でさえも。何も要らない。 「逆上せる前にとっとと上りやがれ糞オンナ」 そう言った蛭魔は先に浴室を出て行く。ガラス越しに身体を拭いている蛭魔を見ながらどうして最近阿含は自分をあんまり殴らないのだろうか。そんな事を考えていた。 □ ■ □ ベッドに寝転んだまま を待つ。誰かを待つという行為が好きではない。色んな事を考える時間が、隙が出来てしまうからだ。最初に気づいたのはいつだっただろう。 の家は蛭魔が言うのも何だか複雑な家庭だった。それを知れども子供には余り関係のない事柄であり、口々に噂をするのは物好きな大人ばかり。 はよく一人で遊んでいた。 中学に入りやたら変わり始めた の変化にも大して驚かなかった蛭魔はずっと昔から彼女を見ていたのだ。彼女の素行がどれだけ荒れようとも彼女がどんなに落ちぶれていこうとも只見ていた。少しだけ気が立ったのは阿含との接近。まあ の性根を知っている分止めろだなんて言ったところでどうにもならないとは思っていた。 『あの男、あたしの事殴ったのよね』 笑いながらそう言った はきっと既に狂っていたのだ。それと共に阿含の行為が にとって特別ではなかったのだと確認する。笑えた。 「遅ェんだよ」 「疲れた」 濡れたままの髪をそのままにぼんやりとした眼差しでベッドに近づく は今にも色あせ消えてしまいそうだ。まだこんなに枯れる前、あえて が蛭魔に対し阿含の話を好んでしていた(それは蛭魔を傷つけようとしての事だ)頃の話を思い出す。思い出せばヤる気も失せた。 □ ■ □ あたしと似てるのかも知れない。そういう類の最低な話を聞いていた。自分と似ている、そんな事を言い出せば仕舞いが近いのだ。薬でもやってんじゃねェかと の目を覗き込めば相変わらず生気のない眼差しを返された。どうやら阿含も に対し(蛭魔が思う分には酷く気持ちが悪いが)何かしら特別な面を見せているらしい。馬鹿げた話だと思う。こんなにも、それこそ秒単位で追い込まれている女に寄り添うだなんて間違っているし、共倒れがいいところだ。好んで一人になる阿含はその事に気づいていない。一人ではないと思う反面自分は他の誰とも違う、同じ位置には誰もいないそれが当たり前だと思う。 「・・・あたし、悪趣味だと思う?」 「昔っからそうじゃねェか」 「ふふ」 あたしと一緒にいたらあいつも溺れちゃうのよ。淀んだ眼差しで呟く。眼差しの先には阿含がいる。悪い癖だ。 「そんなに気に入ってんのか?」 「妬ける?」 「いいや」 それは自分も同じだと思っただけだ。 I'll Do Anything(Courtney Love)
もう、それこそ(色んな意味で)泥沼に! |