宴過ギレバ刹那ノミ

期限切れ






日が沈むとはよく言ったものだと、確かに太陽は海に沈んでいた。
ゾロは何気にの手を取る。
他の人間は食料調達や諸事情があるらしく船をおりている。 今船内に残っているのはゾロとだけだ。

「何?」
「い―からじっとしてろ」

どうやらはじきに船を降りるらしい。
別にがそう言ったわけではなく、ゾロがそう感じるだけだ。
脈々と動く心の臓、動悸が治まるまでこうしていようと思った。
蒼いはずの海は赤く染まる。

「・・・遅いねみんな」

陽の落下速度は速く淡いながらも闇は訪れる。
障害のない大空には幾重もの星が浮かび
はそれを見上げそう呟く。
もしがどこかへ行くのならばそれを妨げる事は出来ない、ゾロは何気にそう思う。

―ああ、そうか

関係の有無云々よりもを、これ以上は一緒にいられないのかも知れない。
漠然とそれに気づいてしまった。ゾロは軽く溜息をつく。

「何してるのよゾロ・・・」

やけに暗いゾロを見ながらはそう言い笑う。
人の手握ったまま溜息なんかつかないでもらえます?
少し明るく言おうともゾロは悪ぃなの一言ですませる。
言いたい事あるなら言ってよゾロ。
波のない海、じきに荒れる。




昔から何となく先が読めた。
ハッキリ予知するわけではない、ぼんやりと先が読めるだけだ。
今ゾロと一緒にいれば否応なしに先が読める。
その都度はそれに怯える。

「ねえゾロ・・・・・」

先に進もうかと悩んでいた。ゾロと離れるのは辛いだろうと予感していた。
は迷う。自ずとゾロをなくす事は必然だ。

「何だよ」

「・・・・別に」

恐らくゾロも気づいているのだろう。
尚更口に出せなくなってしまったは只々黙り込んだ。




がこの船に乗り込んだのは酷く偶然だった。
見も知らぬ町でルフィと遭遇したは何の脈絡もないままに乗船、今に至る。
故郷の話など何一つしたがらないに皆詮索はせず
あまり私情を口にしないはゾロから興味を持たれる。
一番最初はたまたま隣り合わせた酒盛り、
ゾロはに声をかけた。

「・・・・何なんだ?オメェは」

「どういう事?」

「いいや、別に」

「変な男」

クスリと笑んだは信用ならない?ゾロにそう問う。
アルコールは体内を回りぼんやりとを眺めたゾロは
まぁな、短くそう答える。
酷いなぁゾロは、笑い交じりに囁かれたの言葉。
その中に含まれていた己の名に不思議と動悸を覚える。
が自分の名を知っていても可笑しくはない、
ゾロ自身の名を知っているのだから。

「どうしたのよゾロ」

「・・・」

何でもねぇよ。ふっと視線を逸らしたゾロはアルコールを飲み干す。
その瞬間色々と心情が把握出来尚更居た堪れなくなった。




握られた手は未だ微動だにせず無言を貫くゾロは一体何を見ているのだろう。
三連のピアスが時折風に揺れ気だるそうに時折首を傾げるゾロの横顔を
じっと見つめていたは握った手に力を込めた。

「・・・ゾロ、」

「何だよ」

「ゾロ、」

が何か大事な事を言おうとしている。
視線は延々と感じていたしゾロはそれを待っていたのかも知れない。
はゾロが自分の方に視線を送るのを待っている、
しかし。

「ね、」

「なぁ」

グイと引かれた腕につられるようにの身体が倒れ込む。
ゾロの胸元に思い切り倒れ込んだは息を飲みそんなにゾロは囁く。
多分最後なんだろ、理由は分かんねぇけどよ、
ゾロの手の平がの背を撫で指先が髪を梳かした。




ずっと一人で過ごしていたものだから、失くすものが出来るとは思わなかった。
はゾロの胸に耳をつけ目を閉じる。
生まれた時から延々と一人でこれから先も一人だと確信していた矢先の出来事だ、
ゾロと出会ったのは。

「あたしね、」

、」

「あの・・・」

「何も言うんじゃねぇよ」

「でも、」

一体何を言うのだろうか。
しかし何も言わないままゾロの前から姿を消す事は出来ないと思っていた。
きっとゾロの事を思いやるふりをして、自分の中の葛藤を消し去りたかったからだ。
ゾロは言う。
今は何も言うんじゃねぇよ、外野が帰って来るまでじゃねぇか。
片足を曲げたゾロはの身を完璧に預かった状態のまま空を見上げる。

「分かってたぜ、」

「え?」

「けどよ、」

どうにも出来ねぇしそんなてめぇが馬鹿らしくて仕様がねぇ。
肩に触れたゾロの手の平がやけに熱い。
別れを想定しての付き合いなど辛さが増すだけだ。
だからといって今更互いに引けない所まできていた。




「おいショウ飲めよ!!」

「ちょっと・・・・!!」

無理矢理口に押し付けられたジョッキには
やけに度数の高いアルコールが大量に流し込まれている。
にそれを押し付けたのはルフィであり彼女はそれを一気に飲み干す。
そんなの隣にいるのはやはりゾロであり
苦笑しつつを見るゾロの胸中は如何に。
もうやめてよルフィ。
笑いながらはそう言い新しいジョッキに手をかける。

「無理してんじゃねぇ」

「だ〜いじょうぶ、」

有耶無耶を消し去るようにショウは酒を煽り
ゾロはそんなを只見つめる。
不安は消えない、
恐らくはが目の前から姿を消してようやく不安が形になるのだろう。
俺がオメェを見ててよ、でオメェが俺を見てて。
たったそれだけの事なのだ。

「・・・」

「なぁに辛気臭い顔してんのよゾロ!」

「うるせェ」

多分俺が感じてんのは余計なモンだ、どうにかして忘れるべき出来事だ―
ゴクリ、液体が喉を滑り落ちる。
周囲の雑音がゾロの耳から消え去るのは時間の問題であり
揺れる視界に残る残像もじきにだけとなる。

「な、に・・・」

ぬっと伸びた腕はの腰に周りそのままゾロはに口付ける。
アルコール越しの口付けは瞬間で終わりその後すぐにゾロは腕を離した。


そうして本当は
という女自身を忘れたくないのだと
漠然と思った。

懐かしいですねえ。キリリクのゾロ夢ですよ。
今と違って若干マトモ(しかし悲恋)