聖なる夜の三秒手前

「・・・・・で、や」
「何か寒くない!?何この寒さ!!」
「本当は呆れて声も出んトコや、けどなぁ・・・」
「あんた寒くないの!?何で足出してんの!?」
「何でお前がココにおるんや・・・・」


ジーンズにクラシックなコート、
ちょっと見オードリー的要素を濃くしたスカーフは
頭から首元にかけ巻かれている。
深いレッドの唇は相変わらずキラキラと光っており吐く息も白い。


「もう信じらんない!!寒くないの騎馬!」
「伊武さんは・・・お前の保護者はどこや!!」
「知らないわよ!!
末次呼びにでも行ってんじゃないの!?」


しゃがみ込んだは両手で自身を抱き締め
もう耐えられないとばかりに俯いてしまった。
お前ヒールで芝生内に入んなや、
練習前(三十分前行動)に
指定のグラウンドへと出て来た騎馬は
に遭遇してしまった。




朝方から何かとどこかへ連れて行けと
五月蝿く騒いでいたに業を煮やした伊武は
フェラーリ(高杉曰くあの凄いの)に
を投げ捨て(はシートに放り投げだされた)
アクセルを思い切り踏み込んだ。
エンジンをかけると同時に流れてくるのは
やはりが伊武に無理矢理聞かせ続けていた
(それどころか彼女は暗記しろと言っていた)CDであり
は頭を打ったから痛いなんて愚痴を漏らしながらも
少しだけ嬉しそうにしていた。
大体今はこのを連れどこかへ行っている場合ではないのだ―
練習をしなければならないというのにどういう有様だ。


「ここで待ってろ」
「ええ!?寒いし!!」
「うるせェ!!」
「ちょっと待ってよDV!?」
「俺はお前の旦那じゃねェ」
「トラウマなるって!!」
「なってろなってろ!!」


助手席から半ば蹴りだされた
あっさりと走り出した車に対し
何かと暴言を吐き出していたが今回ばかりは諦めたらしい。
辺りを見渡せどもそこはグラウンド、
芝生ばかりが寒々と広がっている。


「何でフィールドなんかにいるのよ〜〜〜!!!」
大体こんなトコに来たいとか言ってないしさ!!
つーか剣君酷くない!?
吐く息が真っ白だ、
はタバコを吸おうとするが
そういえば昨夜伊武に取り上げられた事を思い出す。
女がタバコなんざ吸ってんじゃねェ、
あの男の言い分は毎回まかり通らないものばかりだ。


「苛々するし寒いしけど
メンソールだから寒さは変わんないか・・・」
「・・・・部外者は立ち入り禁止や」
「げっ!携帯電源切ってるし!!」
「・・・・・・・・・」


目前にいる色んな意味で派手な女は
些か危ない様子で独り言を、
思い切り顔を上げた女の顔にある種騎馬は釘付けだ。
毎回顔を合わせれば迷惑をかけられているあの女





「騎馬じゃ〜ん」
「サン、つけェ」
「何やってんのあんた」


それはこっちの台詞や、
先日やはり突然伊武に呼び出しの電話を貰った騎馬は
性格上か早々と現地に到着していた。
まさかその目的地に
最終トラップが仕掛けられているとは夢にも思うまい。
騎馬は胸の中で少しだけ伊武を恨んだが
起こってしまった事は仕方がない。


「げっ、何その格好・・・」
「は?」
「な〜んで足出してんのよ!!」
「何でって・・・練習や」
「いやーー!!見てるだけで寒いじゃない!!」
「いやって何や!!」


実際とこうやって二人でいる事は初めてだ、
いつもは誰かしら他にいる。
だから延々との相手をする事もない。
確かには案外可愛い、
何が皆をこう躊躇させるのだろうか。
は一人で喋っているし
騎馬の相槌すら耳に届いてはいないだろう。


「ちょっと剣君携帯の電源切ってんの!どう思う!?」
「どうって・・・」


それよかお前剣君はどうやねん、
まったく違う視点の二人がここにいる。
指定された時間まで後十五分―
その間は騎馬の右腕をずっと掴んだままだった。




「・・・サンもいるのかよ・・・」
「・・・仕方ねェだろ」
「あの人苦手なんだ、」
「俺も得意じゃねェ」


あんたの妹なんだろ、
遠目にを確認した末次はそう言い
キャップを目深に被りなおす。
パラパラと人数の増え始めたグラウンド内
を取り囲む男達。
当初は不安ばかりが募っていたが
今となってはやはりあのをどうにかしよう、
などと表立って出来る人間は
この世にいないのではないかとさえ思えていた。


「誰かとくっついたらどうすんだよ」
「んな物好きいねーよ」
「どーだか・・・」


あんた急に歳取ったな、
末次はそう笑い伊武は何かを言いたそうな手前
少しだけ止めハンドルを握りなおす。

書いてる最中にも大変幸せを感じていたよね