僕ヲ殺シタ君

【本当は最初から信じてなどいなかったに違いない。それはきっと互いに。】




すっきりし過ぎた室内を見渡しは息を吐く。
ここは余りにも広すぎる、ここはあまりにも白すぎる。
好きにすればいい、最後の日は確かにそう言ったし、
あの男はそれを間違いなく耳にしたはずだ。
ならばどうしてあの男はここにいないのだろう。
ならばどうして今になりは、その事に酷い動揺を覚えているのだろう。


「菊夫・・・・・・・・」


昨日までテーブルの上にあったパスポートが消えている。
渡久地の探す真実のような見せ掛けの正体をは知っていた。
だから渡久地を止めたのに。
それは決して捕まえられるものではないし、積極的に見るべきものでもなかったのだ。
全一と離れ(逃げるといった方が正しいのかも知れない)
少しだけ落ち着き始めた辺り、ガクソはやはりを離しはしない。


「っ・・・・・・・・」


手酷く裏切られたような勘違いがを責め、諦めに似た悲しみが募る。
好きにすればいいと言ったあの日に覚悟は決めていたのだ。
渡久地の引き起こすであろう騒動―――――
彼はじきに追い詰められ余裕すらなくなるはずだ。
その責任を、その始末をつけてやる。
自分が、この手で。


「あんた馬鹿よ・・・・・・・・・・」


あんた大馬鹿だわ。
唯一に残されたものは古い写真が一枚だけ。
新しいカメラを買った渡久地が、
試し撮りを兼ねて撮ってくれた唯一の写真、
彼にしては珍しくピントがずれている
(使い方がよく分からなかったらしい)
それだ。
残っていた金は全て渡した。
何も残す必要などないと思っていた。
全てを渡し不思議と見返りは求めなかった、
出来る事ならば渡久地だけが残ってくれればと。


「こりゃ又スッキリしたじゃねーの、」
「・・・・・何の用よ」
「出番だぜ、来いよ
「あんた一人で行きなさいよ、」
「お前が来なきゃ始まんねーだろ、」
「あたしは、」
「渡久地は死ぬぜ」
「・・・・!!」


瞬間顔を上げたは立ち尽くす西園の姿を目の当たりにする。
ガクソにしろこの男にしろ鬼頭にしろ皆同じだ、
どの道自分の事を利用しようと近づき
はそれから逃げられずにいる。
渡久地を守りも出来ず止める事も出来ない。
西園はを見ている。


「来るんだろ?」
「・・・・・あんた、」
「そう睨むんじゃねーよ、」
「信二・・・・・・・!!」


目の前で泣いている女は自分を見ている。
気づかない内に(あの頃はまだ雨宮がメインだった)
は見知らぬ男を愛しているし、
(しかし西園自身そう心配はしていない。
何故ならこの女も自分同様、己しか愛せない類の人種だからだ)
挙句その男は渡久地菊夫―――――
自分達の周囲をハイエナ宜しく嗅ぎ回るあの男だ。
笑えない、酷く笑える状況かも知れない。
少しでも目立ち始めればそれは即座に対象となる。
恐らくは大して強くもないのだから。


「俺の所為じゃねーぜ?」
「わ・・・・・」


分かってるわよそんな事。
大体あいつの何知ってるつもりになってんだよお前。
這いずり回って生きて来た類の野郎だぜ、
お前にゃ死んでも理解出来ねーだろーよ。
別にを追い詰める気はない、表向きは。
只打ちひしがれたこの女を追い詰めるなんて事は、
赤子の首を捻るよりも容易くその分面白味もないだけだ。
だからやらないだけ、表向きは。
は床を見ていた。

渡久地…
2003/9/24