ANGEL-DUST

案外深夜まで営業を行っているこの南龍生堂に、一人の珍客が来訪した。
シャッターが入り口半ばまで閉められた状態。
店番を任せられた(強引に)息子にとっては有難くない類の客だ。


「(ま〜た来よったわ・・・)いらっしゃ、」
「はいよーどーも」


隣の家の不良娘(この商店街で専らの噂)が来訪だ。
ちゃんも悪い娘やないんやけどね〜最近の娘は分からんわ。
因みに昨日のオカンの台詞な。


・・・・・何を、」
「コンドーム買いに来たってん」
「はっ?」
「どこなん?出しいや」


同じ学校なのにここ最近まったくといっていいほど
顔を合わせてはおらず(しかも岸本と同じクラス)
艶のない髪はプラチナに近いほど痛んでいる。
そうやそう言えば昨日オカン達言ってたわ
(あれやね、うちのオカンととこのオカンな)
最近コイツが家に戻らんやら、あの娘は一体どうするつもりなん、とか。


「ちょお、」
「あ?」
「烈」
「な、何や・・」
「お勧めはないん?」


酷くつまらなさそうに商品を眺めるは南にそう言い、
レジ前で立ち尽くしていた南はふと我にかえる。
保育園から小学校中学校、高校まで同じ。
隣同士俗に言う幼馴染の彼女は、いつ頃からこうなってしまったのか。
あの学校内でもやはりこんなは有名であり(どんなか分かるやろ)
お相手を願う男が少ないわけではない(が南の手前表立ちはしないらしい)


「お勧めてお前な・・・」
「お試し期間有?」
「はあ!?」
「冗談や、他所で使うわ」
、」


お前いい加減に―――――
そんな折ふと気づいた。
小学生の時分には彼女はまるで浮世離れしていて、
いじめっ子達(それも又南が筆頭だったのだが)も
迂闊に手を出せなかったというのに。
が見てる。
あいつお前の事好きなんやないの?
からかい半分にそう言われ続けていた幼少期。


「・・・は、」


何赤なってんねん。
至近距離で顔を見上げたはそう笑い、何も買わずに店を出て行った。
何となく、酷く遣る瀬無い気持ちばかりが残り、
就業時間五分前だというのに南は勢いよくシャッターを閉め、
その音に驚いた母親が怒鳴り、
それでも南はやかましいわ、そう叫びそのまま自室に閉じこもった。




絶対岸本辺りには言えん。
その夜めっちゃエロい夢見た。
ここ最近ずっとバスケしよるにも拘らずめっちゃエロい夢。
危うく夢精するか思うた。
めっちゃ気持ちええやんか、ほら、な。
例に漏れずを抱いとったわ。
阿呆か俺は。




「おはよーさん、」
「・・・・・・」


朝から母親は不機嫌であり(昨晩が原因なのは明白だ)
朝食に出されたものはお中元でもらった(大体何時のや)
ピ●トロのフレンチドレッシング、一瞬目を疑ったが間違いない。
喰えるかんなもん!!
まったく朝っぱらから景気のいい喧嘩をしてしまった。
しかもそんな日に限って一歩店を出れば(最早正面玄関の域)
と出くわした。
一年に一度あるかないかの奇跡的な偶然、夢を思い出す。


「何や、あんた機嫌悪いなぁ」
「・・・・・・(お前何してんねん)」
「なぁ烈、」


あたし学校辞めるかも知れんわ。
はいつもと同じトーンで話を切り出した。
余りにも普通過ぎて一瞬聞き逃しそうになる。
このもの珍しい二人組みはやけに目立ち(朝っぱらからんな格好やしこいつ)
顔馴染みの商店街の人間全てがこちらを見ていた。
は足元だけを見つめ口を開く。


「したらあんたともお別れやね、」
「・・・・・何でや」
「あたし家出んねん」
「何で、」
「あんなー」


ぶっちゃけ居場所ないねんあたし。
だから彼女はきっと随時居場所を探していたのだと。
一定の場所に留まりきれない故か。
辞めんなや。
南は不機嫌そうにそう告げる、自分でも意味が分からない。


「・・・・・・・もうなー」


ここにいたくないねん。
彼女に何が起こったのか、もしや今現在起こっているのか―――――
そんな事は分からない。
微かに鼻を啜るはきっと泣いているのだろうし、
仮にが泣いていたとしても
南には気の利いた台詞一つかけてやる事も出来ないのだから。
彼女は小さい頃からどこか違う場所の人間であり、
それは不思議と今の歳になっても変わらないし、
きっと死ぬまで変わらないのだろう。


「、」


そんなら俺んトコ転がり込めや最初の内は、夢が交錯する。
どうせよー知りもせん男の家転々とするだけやんな。
言わなくてもいい事ばかりが頭の中を廻り、
南は更に口ごもりも黙り込んだ。
の事を好きなのだろうか、は誰を好きなのだろうか。
きっとあんな夢を見てしまったからだと南は思う。


「お、南・・・ちゃん!?」


ようやく岸本達の姿も見え、二人の間を流れていた奇妙な空気が途切れる。
商店街の人間ですら度肝を抜かれていた二人組みは
やはりその他の人間をも驚かせ、
確かに泣いていたはずのの顔は化粧一つ崩れておらず
何ちゅう化粧じゃ、南は独り言ちた。

関西弁は完全にエセです
2003/9/25