あいじょうさがし

笑ってやればいい、嘲ってやればいいだけだ。
遥か彼方から見下し様を笑えばいい。
何かに囚われ一番大事なものを足蹴にしていた。
そんな仕打ちをうければ流石に大事なものも愛想を尽かす。
二度と戻りはしないだろう。




先ほどからエースはこの室内に入り込み、じっと様子を伺っている。
そんなエースの存在にいち早く気づきながらも、はまるで方向を変えず、
仕切りに窓の外を眺めこちら側を振り向く様子はない。今の所は。
愚図な時間が緩々と経過する、エースは動かないも動かない。
そういえば昨日は酷い嵐でここ一帯も大いに荒れた事だろう。
あたしは雷が嫌いなのよ叩きつけるあの雨音も嫌い。
随分前にはそう言い(それにしても自分の事しか言わない女だ)
ねえエース、あんたはあたしをそんなめにあわせやしないわよね。
そう念押しした。


ならば簡単だ恐らくこの女は
金輪際エースを存在しないものだとして生活を続けるに違いない。
確かに今まで(トータルで考えるのならば最初に寝た時をハジマリとしようか)
ハジマリとこのオワリ(仮に、だ)の間とエースが同じ空間を共有したのは
それこそ数える程度であり、一度寝たからどうのと言うつもりでもない。
関係などなかったのかも知れない。
それなら何故エースが今ここにこうしているのか、
意味などありはしない只気が向いたから、それだけだ。
嵐の後の静けさとはよく言ったもので、
の先にあるあの窓の向こう小鳥ですら羽ばたく始末だ。




「・・・・・・・・
「・・・・・・・」
「あ〜何だ、」
「・・・・・・・・」
「出直してくるわ、」


それは何時を示す言葉なのか。
の顔が少しだけ動き、振り返ろうとした瞬間を阻む。
ガラス越しに見える彼女の眼差しは明らかに床を見据え
俗にいう淋しさなんてものの類が含まれていたのだろうか。
エースはを遠巻きに見つめ、
何となく好きであろうこの状態を打破する事もなく
再度の登場を選んだ。




「あんたが殺したあの男、」
「悪ぃ、どいつだ?」
「あれあたしのだったのに」
「覚えてねェんだ、悪ぃな
「あんたがあいつ殺しちゃったから、」
「いやだからどれ―」
「凄く暇よあたし」


なら俺と遊ぶかい?
エースはそう言い、はそれとなくその誘いを受けた。
この男が海賊だろうが何だろうが最早関係などない。
楽しめるか楽しめないか、それに尽きた。
飄々としたこの男は相応に面白く、
それなのに長期間を置き去るものだから暇は増加の一途を。
この男じゃ駄目よ気も紛らわせやしないわ―――――
エースが帰りもう少しで一週間が経過する。
深い箇所まで潜り込み話をするほど親密ではない。
エースにしてもそこまでの世話を焼くつもりはないのだろう。
表面上だけで気楽なお付き合いを、分かった振りをしながらなし崩し的に続ける。


「・・・・・・・今度、」


今度来たらあいつ殺そう。
そんなの胸中を知ってか知らずか、
彼女のほとぼりが過ぎるまでエースは姿を現さない。
丁度ほとぼりが過ぎ安泰の期間が訪れる合間に
あの男は性懲りもなく姿をあらわし、束の間だけの優越感を得てゆく。

昔からこんなイメージだったらしいです
2003/10/2