クレテヤルヤツラ

ゾロが見ている。はゾロを見る。淡く笑っている。
普段稀に見せる底意地の悪そうな顔ではない、嫌に優しく笑っている。
戸惑ったは乳白色の足場が余りにも広大なもので近寄れず―――――
ゾロはあんな所で一体何をしているのだろう。
少しだけ顔を上げればゾロは又笑った。
酷く俗物的な言い方をすれば優しそうな表情を。
ああ、あたしこの男好きだわ、ゾロだと知って尚はそう思った。




ふと目覚めれば明け方より少し前。
我ながら何て夢を見てしまったのだろうとは苦笑った。
ゾロは隣でまだ寝ているし、よくよく考えてみれば
寝入ってまだ数時間しか経過していない。
またよりにもよってゾロのあの姿を夢見てしまったのだ。
悪趣味にもほどがある。
果たして何に飢えているのか―――――
何か大事な事を忘れているのだ。


「・・・・・・・・あ、」


そうだ。
今ここでゾロと一緒にいるという事が大きく間違っているのだ。
こんな場面を仮にあいつが目の当たりにすれば、あの船はどうなるのだろう。
少し考えただけでも相当の騒動は期待出来、呆れたようには笑った。
関係を開始した直前に二人は痛みという痛みを全て放棄したのだ。
当たり前の顔を下げ二人が二人を裏切り続けている。
言葉にすれば案外キレイに聞こえる気もするが、
人でなしが一つの船に二人いる、それだけの事だろう。


「サーンジ、」


あの黄金の髪を指先で弄ぶ時の感触を思い出す。
あの男は案の定終始優しい。
仮にナミとサンジに関係が成立していればどうなるのだろう。
きっとゾロは許しはしない。
そう考えればまったく一体何て男だと。


「サンジ、」


ゾロの耳を突かないほど小さな声で名を呟いた。
この関係が易々と壊れるわけはないと思っている。
痛み等なくなったはずなのに、どうして息苦しいのだろう。
ゾロはまったく計画犯で、だから思い出した。
あの夢ですらゾロの感化に他ならない。




「ゃ、ちょっと・・・・・」
「何が、」
「駄目だって、これマジで、」
「今更じゃねェか」
「ゾロ、」


切羽詰ったの声が胸元で聞こえた。
別に誰でもよかったわけではない、だからだというわけでもないだろう。
サンジの女だから、それももう関係はない。
ナミと寝た後でも平気でを抱いた、だけが追い詰められている。
そんな様をじっくりと傍観し、何れどちらかを選ばせるつもりだ。


「サンジが、」
「あいつがどうしたってんだよ」
「いるから・・・・・・・」


消え入りそうなの声は容易く奪われる。
が自分で選んだように見せかけた、だけが裏切ったと。
どちらに転んでも裏切りのセレクションを。


「ん・・・・!!」


壁に背を押し付け、の身体を押し潰すように口付けた。
怯えたような舌を絡み取りの腕が自然に背に廻る。
この状態をナミが知れば、出来た彼女は一体誰を責めるのだろうか。


縋るようにが爪を立てた。視界の隅に人影が走った。
あれは誰だ。視線すら合わせないようにと。
背丈から見て案の定毎度の如く姿を見せていたルフィの兄貴といったところか。
は必死に何かをこらえ、身体だけが言う事を聞かなくなっているし、
あの男が余計な事を口にする事もないだろう。


「なぁ、」
「ん、」
「別に文句はねェよな」


潤んだ目が自分を見上げる。
は何かを言いたそうに唇を開き、それでも言葉は流れてこない。
腰の辺りを撫で一瞬ビクリと震えた
顔を下げゾロはもっと身体を近づけた。




一時間が余りにも遅く脳死状態のはゆっくりと白ける空を見ていた。
このモーテルには果たして何人の人間が泊まっているのだろう。
何も考えていなければ不安が際限りなく襲いかかってくる。
それでもあの夢はもう見たくない。


「・・・・・・・っ!!」
「おい、」


肩を強く引かれの身体がベッドに倒れ込む。
視界が強く廻った。


「ゾロ、起きて―」
「何胸糞悪ぃ名前呟いてんだよ、お前」
「ゾロ、」
「俺がいるじゃねェか、」


不満かよ。
ニヤリと笑ったゾロは卑しいほど唇を求めるし、 今のところにはそんなゾロを阻む事も出来はしない。

この何角関係みたいなのも多かったな
2003/9/29