こわれやすいものたち

最初から大して優しくはない男だったのだから
あまり気にはならなかった。
変化が現れたのはどこかの陸地で戦闘開始、
踊り場に降り立ったが、
階段から転げ落ちた時だったのかも知れない。




クルクルと回転する景色の中にゾロがいた。
嫌に真剣な表情をしているものだから、
はそんなゾロに釘付けになり、受身すらも忘れてしまった。
強い衝撃が背を打ち呼吸すら奪う。


「ぁ、」


後頭部の強打だけは何とか避けた。
石造りの階段は段数が多い割りに高さはなく、
まあにしても階段落ちは初めてではなかったので
ゆっくりと身体を起こす。
そうして笑いながら戦闘を再開すれば
サンジがやたら心配をする手前、
ゾロから露骨な無視を受けるようになった。
わけが分からないままに手当てをうけた
自らゾロに話しかける事もなく数日を過ごす。




「あのさあ、」
「何?」
「あたしゾロに何かしたの?」
「え?」
「凄い露骨にシカトされてんだけど」


別にゾロの事を探るわけではない。
只時折感じるゾロの視線が、今までのものとはまるで違っていた。
今まで感じていた視線といえばまあ大半がセックスを誘うもの。
一度目があえばそのまま反らされ行為へと。
今の視線は目をあわせる事もない、何なのだろう。
これは一体何なのだろう。


「あ〜〜苛々する、痒いし」
「駄目よまだ包帯取っちゃ、」
「もう治ってるわよこれ、絶対!!」
「まだだよ・・・」


ブンブンと腕を振り回す
心配そうに見つめたチョッパーは治癒までの時間を。
そんなに待てないわよ!!
確かに自分の不注意の上での怪我ではある。


「ゾロ、あいつ今どこ」
「裏側だと思うけど・・・」
「行ってくる、」


じゃなきゃ気がすまないのよねあたし。
はそう言い立ち上がる。
立ち入ってはならない領域があるという事に気づいていなかった。
ゾロが外壁を堅く覆っている事実には気づいていたのに。
不機嫌そうなゾロはの姿を目にすると立ち上がった。




「ちょっと!!」
「・・・・・」
「何でシカト!?わけ分かんないんだけど!!」
「・・・・・・」
「あたし何かした!?」


がゾロの腕を掴んだ瞬間、
ゾロがそれを振り払った、顔は見えない。
幾分ショックだ、いやこれは相当ショックだ。
今まで何回ヤった?あんたあたしの事嫌いだったの?
じゃあ何でヤるのよ、凄く、苛立つ。


「・・・・・大っ嫌い、」


の声が響く。


「あんた何か大っ嫌いよ!!」


語尾が緩んだのはが泣いていたからだろう。
それでもゾロは振り返らず、噛み締めた奥歯が鈍い音を立てた。




階段から落ちるを助ける事も出来ず只見ていた。
過去の悪い記憶を思い出した。
そんな事既に消化してしまったと思っていた。
気になどしてはいないつもりだ。


「ゾロ、あんたねえ!!」


の姿があの時見届ける事の出来なかった。
彼女の姿とダブった。
瞬間が死んだと思った。


が一体何したっていうのよ」
「るせェ」


は生きているし、只姿を見るのが怖いだけだ。
あの女は色々と思い出させる。


「知るかよ、クソッ」


只今はの姿を目に出来ないだけだ。
きっともう少し時間がたてば平気になる。
だから今だけは見ないでいたいだけなのだ、ゾロはナミの声すら無視した。
誰にも知らせはしない、大事なものが音をたてた。

再アップ
トラウマ的な
2003/9/13