BC-P

「あ?いーっつーの来んじゃねーよ」
「馬鹿そーゆー事じゃねーだろ!!」
「は?何?結局来んのかよ・・・」
「つーかマジ中入って来んなよお前」
「ああ!?もう来てる!?何!?」


一人慌ただしく教室を走り去った柴田の会話全録―――――
普段必要以上に声の大きい柴田が携帯で話をしていれば、
必然的に周囲に会話の半分が丸聞こえになってしまうらしい。
教室内に木霊していた柴田の声。
うるせーんだよ!!
時折そう叫んでいた淡口の声にすら無反応だった。


「何だよあいつ・・・」
「女か?」
「は、まさか!」


あの馬鹿に女なんか出来るわけねーだろ。
江夏の言葉に激しい同意を示した野球部の二者(淡口、中畑)と
その後の方で微妙な表情を浮かべている河埜。
まさか柴田に彼女が(現在皆何かしらの諸都合により彼女ナシ)
出来るわけがない(俺より先に)


「・・・・気になるのか」


一瞬無言で机を見つめた江夏に河埜がそう言う。
違げーよ馬鹿、そう言いはしたものの気になるのだ。


「校門だろ、」
「ああ、多分な」
「いや、お前ら気になるんなら―――――」
「俺見て来る」
「あ?いやいや俺が」
「馬鹿言ってんじゃねー俺が・・・」
「皆まとめて行きゃいーじゃねーか!!!」


半端な譲り合いが滅法気に入らない河野(多分O型)が
思わずそう叫べば江夏達は我先にと教室を飛び出した。




特徴的な髪型が真っ先に目に入り、
俊足(揃いも揃って)の三人は遠目に柴田を確認した。
やはり校門前で偉そうに立ち尽くしている―――――
相手の顔は柴田の身体に隠れ見えず。


「何話して―」
「おい!柴田!!!」
「河野テメー!!」
「テメーらがグダグダやってっからじゃねーか」


兎に角曖昧が好きではないらしい河埜は直球勝負で柴田の名を叫ぶ。
一瞬余りにも判りやすく身を竦めた柴田は
(恐らくは)いるはずであろう彼女(かどうか未だに疑わしいもんだぜby江夏)を
自分の身体で隠すようにしながらその場を逃げ去ろうと目論んだ。
そうは問屋が卸すまい。


「何逃げてんだコラ!!」
「うるせーんだよ来んじゃねー!!」
「ああ!?テメー誰に向かって・・・!!」


駆け寄った三人が目にしたのは。




柴田の背を緩く掴んだ指先。
明らかにその彼女を庇う体勢の柴田は何故かしら動揺の色を隠せず、
何となく勝ち誇ったような(本当に理由が分からないが)
江夏が一歩踏み出せば柴田が一歩後退した。
柴田の影から様子を伺うように自分達を見上げるその少女、彼女はまさか。


「・・・・・誰だよ」
「あ?関係ねーだろ」
「彼女、名前は?」
「話しかけてんじゃねー!!」
「さっきから何なんだテメーは!!」


ようやく一つに纏まりかけたグロカワ野球部決裂の危機―――――
江夏・淡口・中畑vs柴田(圧倒的不利)の
争いが勃発しそうなところを察し河埜が乗り出す。


「柴田」
今回も決裂の危機をやり過ごした(幾度となくある)のは河埜だった。


「お前の彼女か?」
「は?」
「違うんじゃねーか、おい」


(テメーは何でそうも直球に聞けんだよ)


「お兄ちゃん、」
「「「・・・お!?」」」
「友達?」
「・・・・・・・」


(そこ答えろよ!!)


ひょいと顔を見せた彼女の顔は柴田に似ているのか似ていないのか―――――
造形云々は兎も角嫌に可愛らしかったので、何も言う事が出来ず又もや微妙な間が流れる。
しかしそこはやはり河埜、誰よりも先に声をかけた(凄い男だ河埜)


「名前は、」

「年は」
「高1、一個下、デス」


(うわぁ何だか小動物撫でてる妙なおっさんみてェ・・・)


柴田を含めその他人間の胸中は同じ想像で埋め尽くされたものの、
やはりは柴田から手を離そうとしない。
柴田は柴田であくまでもそれを自然に受け入れているし、
妙な違和感を覚えるのはこの兄弟以外だけだ。


「つーか妹なら最初からそう言えよ」
「だな、」
ちゃん?だっけ?あ?」


やはり知り合いの妹に手を出す気にはなれず(淡口までも)
緩い時間が流れ出す。
よくよく見ればやはり小動物のような、
自分より大きい生き物を見た瞬間、動きの止まる小動物のような。


「本当にお前の妹かよ・・・」
「悪りーかよ、もう帰れ、
「ヤダ!!折角来たのに!!」
「迷惑なんだっつーの、帰れって!!」
「嫌!!」


(絶対何かおかしいこの娘・・・)


「お兄ちゃんと会うのも久しぶりなのに・・・」
「家に帰りゃいつだって会えんじゃねーか!!帰れ!!」
「お兄ちゃんが帰って来ないんじゃない!!」
「(ああもう俺どうしよう)つーか、それは・・・!!」


は柴田(非常に困っているのは明白だ)の腕を掴み距離を縮める。
マズった、マジで来んじゃなかったぜ―――――
早くも後悔を募らせかけている中畑と困惑気味に状況を見守っている江夏。
そんな折ニヤリ、何かを企んだような表情の淡口が口を開いた。


「女の家泊まり歩いてんじゃねーのかよ」
「あ?」
「何!?」
「教えてやったじゃねーか、すぐヤらせるって女の携帯」


ニヤリと笑う淡口を見た柴田はの顔を見れないでいる。
何言ってんだテメー、結局教えなかったじゃねーかよ!!
自ら墓穴を掘る辺りが柴田らしいのか。


「お兄ちゃん・・・・」
「あ!?・・・・!?おい、ちょ・・」
「馬鹿!!!最悪!!」


火が点いたように叫んだ
引き止める柴田を振り払いグロカワを後にする。
つーかお前それおかしくねーか!?
柴田の叫び声だけが空しく響き渡った。




「あ〜〜〜!!!」


何て事しやがんだ淡口テメー!!!
幾分憔悴した柴田が食いかかる。
何かむかついた、淡口の言い分はそれだけだ。


「つーか、」
「あ?」
「お前の妹?」
「何だよ」
「何つーか、」
「あーあのよ、」


皆一様に口に出せないでいるには理由がある。
一つは衝撃があまりにも強すぎた点。
もう一つは何となく言い難い―――――
どちらかといえば、ひっそりと胸に秘めておくべき事柄だからか。


「あ?何が言いてーんだよ」
、ちゃんだったよな」


あの淡口までもが非常に言い辛そうに(視線すら逸らす始末)語尾を濁らせる。
そんな中やはり口火を切ったのは例によって河埜だった。


「お前達何か只ならぬ関係でもあるのか?」


(こ、河埜―――――――!!!!!)


何て野郎だ(ゴクリ)と一人冷や汗を拭った江夏は柴田を見つめる。
相変わらず柴田は馬鹿面(失礼)を引っさげ
河埜の言った事を反芻しているらしいが、あまり理解出来ていないようだ。
そういえば昔、部室でAVの交換会(何やってんだ)があった時
近親相姦モノだけは勘弁だな俺、柴田は確かにそう言っていた。


「マ、マジで・・・!?」
「何が」
「お前、妹と―――――」
いや、待て。
事の進み具合を見守っていた河埜が決定打を下そうとした中畑を制す。
仮にコイツ(柴田)がどんな生活を送っていやがろうと
俺達が迂闊に踏み込んじゃいけねーぜ。
コイツにはコイツなりの考えがあっての事だろう(多分)
けどあり得ねーだろ!!
いや河埜の言う事にも一理あるぜ中畑―――――
どうせ血は繋がってねーだとか
他愛もねーオチがあるに違いねー(割って入ってきた江夏)
なら判るぜ俺も(納得は出来ねーけどな)


以上四者アイコンタクトで行われた会話前文。


「俺困ってんだよなー」
「「「「何!?」」」」
「アイツいっくら言っても聞かねーし、」
「「「「何を!?」」」」
「いくら何でもこの年で一緒に風呂にゃ入んねーだろ?」


(何を―――――――――――――!?!?!?!?!?)


「そ、そりゃテメーとその、妹が?」
「アイツは入って来んだよ、だから俺最近風呂、鍵かけててよ」
、ちゃんの方からかよ・・・(世も末だな)」
「家に帰りゃ付きまとわれっし、ウゼーんだよマジで!!」
「・・・・・・・・・」
「今日だって何しに来たんだか・・・・」


俺悪りーけどお前ん家今日泊まっからな淡口。
突然話を振られた淡口はまともな返事すら返せないでいる。
そういえばこの男、最近頻繁に各自の家へ泊まりに来ていた。


「家には戻らないのか、お前」
「あいつあんだけ怒ってたからよ、戻んねー方がマシ」
あっけらかんとそう言い切った柴田は笑いながら言う。
もうアイツ昔っからずーっと、お兄ちゃん大好きってうるせーんだよ。
全然成長してねーんだな、あいつ馬鹿だから。
お前もな、そう突っ込むより先に思わず出そうになった言葉。


(コイツ全然理解ってなくね――――――――!?!?!?!?)


ある種お前もスゲーよ柴田。
皆それからはその件に一切触れず数週間が経過した時、
丁度江夏の家に柴田が泊まった日(又泊まり歩いている)に
事件は起こるらしいがそれは又別の話。

再UP
とんだブラコンの話。
河埜スゲー
2003/11/19