DOG-LEARN

俗にいう純愛ってヤツかよ馬鹿じゃねーのお前。
惚れた腫れたで右往左往している柴田を横目に、
江夏と話をしていればそう言われ淡口は煙を吐き出す。
掴みかかろうとも思ったが痛み分けに終わるだけだ。
そんな無駄な事は決して。
江夏も知っている一人の女の話だ。
少しだけ年上の、少しだけ世界の違った女の話だ。


「つーか諦め悪ぃのな、お前」
「何?」
「もう終わってんぜそれ、諦めろよ」
「るせーよ」


まだ終わってねーんだよ俺の中ではな。
情けない話だがそうなのだ。
あんたもう止めた方がいい。
は最後にそう言った。
馬鹿にしてんじゃねーよ、淡口がそう言えば、
ガキね、そう笑い部屋を出て行く。
の開けたドアは薄い色の空を垣間見させ
淡口はどこ行くんだよ、そう言ったのに。
そもそもこの部屋はの部屋なのに彼女はどこに行くのだろう。
そうして自分はどこに行くのだろう。


「他にいんだろ、パパとかよ」
「さぁな、」
「あの歳で高級マンション、しかも最上階、しかも一人暮らし」


お前囲ったらどーだよ。
ニヤニヤと笑いながらそう言う江夏に苛立ちは募る一方。
愛してるだとかそういうイメージはまるでない。
何回ヤった、覚えてねーよ。


「つーか一方通行なんだろ、結局はよ」
「・・・・・・」
「青春ってヤツか?」


考えられねー、馬鹿じゃねーのやっぱ。
腹を抱えて笑いかねない江夏を横目に空を見上げる。
江夏の言った事柄などとうに使っていた、は鼻で笑った。




「・・・・・幾らだよ」
「え?」
「お前、買うの」
ふと目覚めれば既に衣服を着用したが目に入り、
何か言わなければ、そう思い口にしたのは最悪な事に
一番気の利かない台詞だった。
一瞬驚いたような表情を浮かべたは鼻で笑う。


「んだよその反応・・・・」
「馬鹿だなぁって思って」
「は?」


淡口と逢う時とはまるで違う顔を。
どちらがいいとは言わないが、何だろうこの不愉快さは。


「どっかのオヤジに飼われてんだろ、お前」
「そう見える?失礼ねあんた」
「そうじゃねーか」
「どうだか」


本気になるとかならないだとか、
つーかそういう面倒くせー事はマジ勘弁。
だからはいい相手だった。
会いたい時にヤりたい時に会うだけの関係、
見た目も好み面倒くさい事等皆無、一番望んでいたもののはずなのに。


「やっぱ駄目ね、」
「何が」
「あんたじゃ駄目って事よ」
「は?」
「やっぱガキはガキね」


は部屋を出て行く。
余りにバツが悪過ぎて何も続ける事が出来なかった
淡口一人を取り残しは消えた。
好きだったのかも知れない、未だに分からない事には違いない。




「うーわ最悪」
「あ?」
「あれ、あれ」


興味本位丸出しで指差す柴田は何を見ているのか。
駅前でちょっとした人だかりが出来ていた。


「うぜー」
「つーかマジ荒い、マジで」
「何がだよ馬鹿」
「女が殴られてる」


一人の女を二人の男が囲んでいる。
一人の男は女の両腕を背後で拘束し後は殴られ放題。
俯いた女は大して抵抗もしないようだ。
それを傍観している人間は口々に何かしら呟きながらも
率先して止める事もないようで警察が来るのを待つだけなのか。


「何やったんだかな」
「帰んぞ柴田」


揉め事に率先して首を突っ込みたがる柴田には毎度手を焼いている。
真っ先に踵を返した江夏は横目で河埜を睨み、
いつもならばとっくに前を歩いているはずの淡口の姿がない。
柴田はまだ後の方で騒いでいる。


「いい加減―――――」
「・・・・・
「あ?」


柴田を思い切り突き飛ばした淡口は人だかりへと向かう。
痛ぇな何だよあいつ、柴田の声だけが残った。




痛みが麻痺する事はない。
只酷く重い身体が男の腕によりどうにか立ち上がっている感じだ。
初対面のこの男達は何も言わず殴りかかってきた、
恐らくはあの女の差し金だろうと。
初めてではない、過去数回あった出来事だから。
そういえばこの人だかりの中満足気に笑うあの女がいた。悔しくはない。




「あ!?何だテメー!!」
「お前何やってんだよ」
「は!?」
「ダッセーな」


何となく覚えのある声が頭上から聞こえは血を吐き出した。
男達が何かしら叫び身体がようやく自由になる、痛みが増した。


「淡口何やって―――――」
「・・・・・・・・」
「おいおい」


やっぱダセーぜお前。
江夏の笑い声が響き渡り男達が殴りかかってくる。
何を思いこういう行動に出たのかは淡口自身分かりはしない。
只気に喰わなかっただけだ。男達の強さなど大したものではない。
何やってんだ俺は、笑えない場面ばかりが生活の中に組み込まれた。




一人立つ事もままならないは河埜に抱えられ何か話をしていた。
怪我した顔を見せたがらないは俯いたまま曖昧な返答を繰り返す。


「・・・淡口」
「何だよ」
「お前が話せ」


勝手に入り込んできた柴田は一人数発喰らい鼻血を出しているし、
江夏は兎角この現状が面白くて仕方ないらしい。
弁解の余地すらない淡口はタバコを踏み消しに近づく。


「・・・・・何よ」
「何やってんだよ」
「何でもないわよ」
「顔見せろ」
「嫌」


は泣いているのだろうか、そんな事は余り気にならない。


「見せろっつってんだろ!!」
「嫌!!」


髪を掴み強引に上を向かせた。切れた瞼と腫れた口元。
明日にでもなれば相当腫れているに違いないが、未だ原型は留めている。
食いしばった口元が歪んでいた。


「怪我してんじゃねーよ馬鹿」
「あんたに関係ないでしょ」
「何トラブってんだよダセーな」


原因が何なのかだとか、そんな事に興味はない。
恐らくは言わないだろうし、淡口にしても同等だ。


「その面じゃパパには会えねーんじゃねーの、お前」
「・・・・・うるさいのよ」


はそう言ったきり黙り込んだ。江夏達はこちらを見ている。


「・・・・何見てんだよ」
「見てねーよ」


つーか超迷惑なんだけどお前。
ようやく鼻血の止まった柴田はそう言い舌を出す。
帰るぜ、河埜がそう言えば、他二人は何も言わず背を向けた。




「ヤったのかよ」
「ヤったぜ、当たり前じゃねーか」


数週間ぶりに抱いたの身体は前と変わりなかった。
はやはり淡口に何も言わず、礼の一つも言わず。
只淡口が起きた時にはまだ寝ていた。


「お前趣味悪ぃんだよ」
「うるせーな」
「で」


結局囲えたのかよ。
江夏の問いに答えはしない。
そうして最後までは囲えはしないのだろう。
そう、興味本位だ。
どうなるのかを知りたいだけだ恐らくは。
だから愛ではないと思う。
ガキの思考回路で悪かったな。
今日も見上げれば彼方まで青空が続く。

再UP
シリアスめのグロカワ
2003/11/19