安心しな、それは優しさじゃないから。
江夏を眺めそんな事を思った。
んで女ってよ、くだらねー事でうだうだ言ってんだよ。
彼女からの電話を切った江夏はそう言い向かい合わせのを見る。
柴田は相変わらず時間を守らないし淡口は近くのコンビニまで用事だと。
制服姿のままタバコに火をつけようが何をしようが、
この男と一緒にさえいれば無駄な口は叩かれない。
江夏は余りよく思っていないらしい、タバコをやめた男からすればそうだろう。
は何も気にせずタバコを吸い続ける。
吸殻は案外生真面目に並べられ煙は天井に向かい吐き出される。
安心しな、それは優しさじゃない。
それはきっと、絶対に優しさじゃない。
江夏の彼女は可愛かった。
互いに一定の距離を置くという行為自体どうしようもないのだと思う。
それ以上は近寄らせないしそれ以上は離れない。
現在彼氏ナシの状態なのはその気になれないからだ。
日々に追われすぎている。
あの娘は泣きながら言った。
彼がいないとあたし一人ではどうも出来ない。
大した相槌一つ打つ事も出来ずは腹の中で悪態を吐く。
案外嘘ではないのかも知れないしそれはそれで本当なのかも知れない。
色んな人間がいる、それは一つの真実なのかも知れないし、
が合わせる必要も彼女が合わせる必要もない。
腹の中でそう思っていれば相手にも無理なく伝わるだろう。
人が減っていくだけだ。江夏と話すのは楽だった。
「つーか柴田遅いんだけど」
「轢かれてんじゃねェの」
「あいついっつもこうね」
「けど女相手だったらよ、凄ぇ几帳面、十分前行動」
「マジで?」
「超マジ」
ソファーに足を上げた江夏は相変わらずの眼差しで話を続ける。
他人を見定めるような眼差しに本人は気づいていないのだろうし、
その視線、面構えが堪らなく格好いいと囁かれている事実にも気づきはしない。
「ふざけんなってマジで」
「うわ、ちょっとこっち来ないでよ淡口」
「あ?」
「雨降ってんの?」
「いっきなり降り出しやがってよ」
「運悪ぃなオメー」
雨に降られた淡口の帰還、未だ柴田は来ず。
柴田がこっそりと告白をしていた。
きっとだから柴田は来ないのだとは思った。
お前がどう思ってんのかは分かんねーけどよ、俺好きだから。
間抜けすぎて真摯過ぎて驚いただけだ。
馬鹿だ馬鹿だと思っていた柴田は意外と利口でそうして素直過ぎる。
江夏と比べるからかも知れない。
比較等意味のない行為だと知っていても尚。
こんな思いをしたくないが為は以前柴田の告白を保留し、
我侭な自由を満喫していた。
再UP
柴田を選んだ方がきっと幸せになれるのに、
江夏タイプの方が断然もてるという不思議
2004/5/14