ドライデイズ

彼女の視線の行く先考―安仁屋氏の見解。
最も信頼の置ける権威は部室内で偉そうに口を開く。
偶然でも何でもなく居合わせたメンバーは、
安仁屋を筆頭に若菜、湯舟、新庄、関川、岡田の6名。


「あんな、絶対間違いねェぜ」
「んだよその自信」
「ぜ〜ってェちゃん桧山の事好きだぜ」
「「「は!?」」」


予想外だと言わんばかりに間抜けな声を出したのは三名だ。
残った二名―新庄と岡田は驚きもせず。
んだよお前ら知ってたの?湯舟がそう問えば、
だって見てたら分かんじゃんちゃん凄ェ分かりやすいし。
岡田はそう言い笑った。




桧山がそれを気づいているのかいないのか。
それは依然保留状態なのだが大半のメンバーの胸中は一致している。
多分気づいているだろうと。挙句満更でもなさそうだ。
少しだけ面白くもなかったり。
はサッカー部のマネージャーだ。


「だよな?いっつも見てんだって」
「俺はちゃ〜んとサッカー部からの裏づけも取ってきた」
「あのヒゲ男のど〜こがい〜んだかな〜〜」
「サッカー部の奴ら怒ってたぜ〜俺らのマネージャー取んなってよ!」


サッカー部のマドンナ的存在。
確かには何というか、こう、可憐だ。


「ま、俺らが無理矢理くっつけてもい〜んだけどな」
「多分放っといたらよ、ず〜〜っとあのまんまだぜ」
「けどな〜〜〜」
「な〜?」
「面白ェんだよな、見てたらよ」


悪そうな笑顔を見せ合った若菜と関川は腹を抱え笑った。




は一人廊下を歩いている。
目前にはやはり一人で歩いている桧山の姿が。
桧山が単独で行動をしているというのはとてもとても珍しい。
それこそレアなチャンスが到来しているのだ。
一生懸命頑張っていると思う、それはなりに。
仲のいい友人達曰く『あんたもう本当全然駄目』
サッカー部の隣で練習をしている野球部、
そこで楽しげに試合をしている彼を見ているだけで十分だったのに。


最初はまったく知らない者同士だったが今では話をする仲に―――――
すれ違い様の挨拶や通りすがりに話をする程度だけれども。
一つ年上の彼は今でも(やはり見た目の問題と過去の経歴が大きいに違いない)
下級生から恐れられており(しかしそれも桧山だけではない、
野球部メンバー全員だ)廊下を歩けば避けられる始末。


「桧山先輩!」
「ん?」


わざとらしくならないよう、声が震えないよう気をつけながら声をかける。
桧山が振り返り少しだけ笑った、その笑顔が好きだなんてちょっと惚気てみたり。
我ながら間抜けだなあと思う。


「授業中じゃん、何やってんの?」
「それは桧山先輩もでしょ?」
「だな」


丁度自習の時間帯。
桧山の姿を見たから教室を颯爽と抜け出した等と言える道理がない。
積極的な割りに照れ屋なのが災いし言い訳の出来ない状況下に陥る。
しかし当のはその事に気づいていない(お約束)


「珍しいですね、一人って」
「だろ?あいつらいねーんだよ」
「え!?」
「マジ起きたら吃驚だぜ!?俺イジメられてんのかと思ったよ」


とても幸せなのは百も承知だ。あの噂さえなければ。




桧山が大人の女性と街を歩いていたという噂が、
実しやかに囁かれ始めたのはいつ頃からだろう。
そうして情けないかな噂を耳にし桧山に対する感情に気づいた。
あたし桧山先輩の事好きだわ。
友人と話す際には清起クンと読んでいたりする事は、ここだけの秘密という事で。
兎に角それがきっかけになりは桧山の事を意識した。


「ちょ〜っとマジ凹むんだけど〜〜」
「ど〜せ噂でしょ?」
「火のないトコに煙はたたないの〜〜!!」
「はいはい」


毎度愚痴を聞かせられる友人にしてみれば迷惑千万この上ない。
あんたもういっその事告ればいいじゃん。
軽くそう言おうものならの質問攻めに合う事請け合いだ。
どうしたらいいの?っていうかいけると思う?
何%くらいの確率?ねえ、ねえねえねえ。
友人達は皆一様に思う。
ここまで子供だったのかと―――――
よく言えば純粋、悪く言えば馬鹿。


「だってど〜すんの?」
「え?」
「その噂なくってもさ、桧山先輩好きな奴って他にもいるんじゃない?」
「え、ええっ!?」
「あ〜それアリだね、どうすんの?
「・・・・・」


少しだけ意地の悪い友人達の言葉に一々凹むものだから、
からかわれるという事には気づいていない(やっぱりお約束)




「・・・・・んだよ」
「いや、別に〜」
「あ?」


部室に行けば消えていたはずのメンバーがおり桧山は何となく嫌な感じを。
挙句皆自分の顔を見てはニヤニヤと笑っているものだから嫌な感じは確定する。
んだよバーカ、そう呟きながら着替えをする桧山は気持ち淋しそうであり、
新庄と岡田は気の毒そうな視線を交差させた。
何故皆がここまで他人の色恋沙汰に執着するのか。


「ちーっス」
「お。テメ赤星」
「何スかウゼーな」
「あ!?」


と赤星は同じクラスだ。
そうしてと赤星はとてもとても仲がいい―――――
その仲のよさは皆が恋人同士だと勘違いしていた程だ。
当人達がいくら否定しようとも隠しているとしか取られない。
(しかし事実は本当に仲がいいだけで、
にしても赤星にしても互いを異性として見ていない)


「今日ちゃんどうよ?」
?知んねーし、あいつの事とか俺が知ってるワケねーっしょ」
「またまた。またこれだよ」
「まあな。コイツの気持ちも分かんぜ、俺はよ」


何故かしたり顔で馴れ馴れしく赤星の肩を(無理して)抱いたのは関川。
赤星は心底迷惑そうにその手を払う。
そんな様を眺めながら何となく見透かされているような、
自分の勘違いではなかったと思ってしまいそうな気持ちが桧山の中で蘇る。
確かに。確かにそうだ。
仮にもし勘違いだったのならそれこそ惨めな事はないわけで。
実際にと赤星はとても仲がいいわけで。


「あーそうだ桧山サン」
「あ?」
「あんた女と歩いてたらしいっスね」
「あぁ!?」
「もうがうるせーの何の・・・超迷惑なんで謹んでクダサイ、マジで」
「・・・・・」


コイツ言いやがった―――――
余りにも当たり前のように、そうしてサラリと事実を言って退けた赤星は、
数秒の間羨望の眼差しで見つめられる事となる。




「ちょっとマネージャー!!」
「えっ!?あ、ああゴメン!」


折角赤星のストライクど真ん中にも勝る発言により、
の気持ちを知ったにも拘らず桧山は相変わらず、
も相変わらずのまま平行線は続いていた。
只サッカー部のマネージャーがここ最近特に集中力を欠かせ、
ずっとあらぬ方向を向いていたり、練習中の桧山が
やたら不自然にサッカー部の方向へ背を向け練習をしていたり。


「おい桧山!お前それじゃフライ取れねーって!!」
「ウルセー!俺ならやれんだよ!!」
「いや無理だし!つーか俺でも無理だし!」


さて。互いに照れ屋なこの二人の行く先は。

再UP
以前のキリリクみたいです
2004/5/19