ママ

堂々巡りだ、全て堂々巡りゴールには到着しない。
月が追いかけてくるだとか追いかけているだとか、
そんな話をしていた。昨晩あっていた映画の話。
主人公とヒロインが大きな月を見上げながらそんな話をしていた。
が元彼とよりを戻しただとか、
今回も又タイミングを見過ごして同じ後悔を繰り返している事だとか。
幸せは絶対に向こうから歩み寄っては来ない。
ぼーっと佇んでいても素知らぬ顔をし通り過ぎられるだけだ。
ニアミスニアミス、それの繰り返し。


「あ〜〜〜〜っ!!」


幸せになりてェ、柴田の叫び声が些か虚しく響き渡った。




しかも元彼とは一日限りで又別れ挙句、
今現在ちょっと気にかかっている男がいるなんて(最悪だ)
しかもその気にかかっている男が江夏だとは(尚最悪だ)
流石に夢にも思わず柴田は苛立ちついでに溜息すら漏らす。
つーかお前俺は、そう聞けどもだって柴田だし、は笑いながらそう答える。
中学の時それこそ本当に少しだけ付き合った、
あれは体育祭打ち上げの勢いも手伝っていたのかも知れない。
打ち上げの時酒を飲みそのまま酔いのついでにキスをした。ちょっと可愛いと思った。




「なぁ江夏」
「何だよ」
「お前さぁ」


高校は違った、しかも色々とあったから(それは柴田側に限りだ)逢う事はなかった。
それから二年弱ほど経過したまたま偶然に会ったは、
中学時代よりもキレイになっていた。
見慣れない私立の制服が妙に生々しく、
尚派手になったの姿に柴田は完全ノックアウト。
いいじゃん俺でさ、軽々しく口を開いた柴田には笑いながら答える。
久々なのに全然変わってないねあんた、それから遊ぶようになった。


「お、ま〜たかよ柴田」
「うるせェ」
「いい加減諦めろって馬鹿」
「よくねっつーの!」


周囲に冷やかされる柴田は江夏を見ながら憤る。
そんな柴田を見ながら江夏は笑っている。
が笑えないほど単なる面食いだっただけの話だ。
江夏にしてもある程度のランク(江夏の中での)を越えていれば
言い寄る女は自由にさせているらしい、嫌な男だ。
直線的に考えてしまう、が江夏とキスをしたりやってたりする姿を。
事実ではないが未来ではあるのかも知れない。


「つーか俺に言うなよ」
「あ?」
ちゃんに言えってよ」


ニヤニヤと笑いながら淡口がそう言った、江夏が口を開かない辺り尚腹が立つ。
確かあの時、中3の時の体育祭は終盤から雨が降り始め、
丁度体育祭が終った瞬間に示し合わせたように土砂降りへと。
打ち上げをする友人宅までの道を雨に濡れながら二人で駆けた。
こいつらに言えば爆笑される事請け合いだ。


「・・・クソ」


色々と頭の中で廻る古い映像に唾を吐き柴田は教室を出る。
本当は分かっていた。
大体自分がどうのこうの口走ったところで意味がないという事を。だけれど。


「おい江夏!!」
「あぁ!?うるっせェな!」
「テメー俺に取られたからって怒んなよ!!」
「・・・・は?」


廊下側の窓を開けた柴田は教室内に半身を出し、
江夏を指差したままそう豪語した。
最初はキョトンとした顔を下げた江夏も何となく理由が分かる。
そうして馬鹿じゃねぇの、そう笑う。柴田は既にいない。


「お〜お〜馬鹿が」
「ダセエ」
「けどよ、ど〜すんだ?江夏、」


もしかしてもしかすっかもよ。
淡口がそう言えば江夏は何ともいえない反応を返した。




「・・・・・何やってんの、あんた」
「るせェ」
「幾ら馬鹿でも風邪ひくわよ」
「るせェよ!」


あの時と同じシチュエーションを選んだ。
嘘だ突然雨が降って来ただけだ。
しかもあの時は秋で今は冬だ、寒さが段違いだ。


「あのさぁ、江夏君の事なんだけど」
「そいつの名前出してんじゃねーよ、馬鹿」
「あんたの友達でしょ〜?」


そう言い柴田の顔を覗き込もうとしたの顔
柴田はの腕を掴む。
力任せに引き寄せた、ちょっと冷たいんだけど!!が叫ぶ。


「お前の事好きなんだよ!!」
「え!?」
「何が江夏だよ、くそっ!!」
「ちょっ・・・人見てるって!柴田!!」
「「あ〜〜〜もうマジむかつく!」」


そう叫んだのも二人ほぼ同時だった、互いに互いが顔を見合わせる。
下唇を突き出した柴田はの腕どころかそのまま腰に手を回し、
は柴田の胸元に手を置いている。
柴田の顔を見上げれば雨粒が沢山落ちてきていた。


「・・・・・何よ」
「キスしてー」
「はっ!?」
「いいじゃん、な」
「ヤダって!!あんた何考えて―――――」


何を隠そうここは駅前、妙な男女が雨の中
接近戦の言い合いをしている姿はとても目立つ。
男が力強く女の腰を引いている、女の表情は男の身体に隠れよく見えない。


「・・・・・・!!!!!」


バチン、雨の中乾いた音が酷く木霊し女が雨の中そのまま駆け出した。
ちょっと待てって、誰が見ても悪いのはその男の方なのに、
男はそれでも女を追いかけた。




「あ〜〜〜幸せになりてェ!!」


鳴らない携帯と止まない雨と痛みのひかない頬と胸。
どうにかなるってマジでマジで、何となくそう思い慰めたりもする。
はとても怒ってしまいそれどころか少しだけ泣いていたような、
もしかしたら雨粒だったのか。
先は見えないが道は作られたような気がする。
幸せになりてェ幸せになりてェ、誰だってそう思うはずだ。

再UP
意外と柴田が多かったようで
2004/1/23