ブロキン

威勢良く啖呵を切りファミレスを飛び出した。
客や店員が思い切りこちらを見ていたが、そんな事を気にしている場合ではない。
何でも練習後腹が減ったと口癖のように喚く赤星に連れられ
某有名ファミレスに立ち寄ってしまった。


「あ〜〜〜〜っ!!!!!」


毎度の事だが不思議と今回は駄目だった。
赤星の何気ない一言が の怒りを買っただけの話。
生理前なのが余計に悪い。


「何なのあいつ・・・・!!!」


しかも練習中(毎度の如くマネージャーでもないのに
グラウンドにいなければならなかった)には、
あれだけ晴れ渡っていたにも関わらず大粒の雨が に降り注ぐ。
赤星に舐められるのには にも理由ある。
今日も威勢良く出てきた割に、財布やバッグ総てをあそこに置いてきてしまった。
このままでは家にも帰れない、電車にも乗れない、携帯も忘れてきている。
最悪の三つくらい上の段階だ。


「馬鹿!!馬鹿!!馬鹿赤!!!」


いつもの事だ、いつもの事。
ここからは の推測(と野球部メンバーの憶測)だが
恐らく赤星は に妬かせたいのだろうと。
だからウェイトレスのお姉ちゃんを の目の前でわざとらしく口説いたり
(それも に対しては滅多に言わない可愛い等の言葉を乱用する)
するのだ、いつもの事。
普段ならば、あんた馬鹿じゃないの? はそう言い
赤星の策になど滅多に引っかかりはしない。なのに。


「あ〜あ〜あ〜もう!!!」


たまたま生理前で気が立っていた事と今回のお姉ちゃんが偶然にも
の嫌いなタイプだったから―――――
え?だって彼女いるんでしょー?
お前仕事しろって。
メニューも両手に抱いたウェイトレスは赤星の戯言に対し、
満更でもないような反応を示す。 ちょっとだけ困ったような表情を瞬間に浮かべた赤星も
今更後には引けず―女の前では絶対に見せない。
とっととあっちに行きなさいよあんた。
は視線を逸らした。




「・・・
「・・・・・・・・」
〜〜〜〜」


今回ばかりはちょっとだけ不味った。
ありゃねーってマジで。
赤星はショウの名を呼ぶが は無視を。
肘を付き窓を見つめた の表情がガラスに写り、
相当怒っている事が伺える。


「何つーの?」
「・・・・」
「怒んなって、な・・・」
「あんた馬鹿じゃないの!!」
「なっ、お前・・・・!!」
「死ね!!」


赤星を乗り越え(短いスカートなど気にも留めず)
はファミレスを飛び出した。




案外嫉妬深かったり(けどそれは奨志だって同じはずだ)
しかもそれを絶対に知らせたくなかったり(これも奨志以下略)
だからといって素直にそれを出せば再三、
からかわれる事請け合いなのだからまったく手に負えない。
徐々に汚染されゆく身体にすら興味は湧かない。
今の にとって一番重要な事はこの苛立ちの捌け口と
如何にして家に帰るかというこの二つに絞られる。


「大体・・・!!!」
「あれ?」
「何で・・・」
ちゃん?」


何やってんのびしょ濡れじゃん。
突然降り注がなくなった雨粒、思わず は顔を上げる。


「風邪ひくって、」
「何やってんだよ」


新庄と岡田がいた。




「―で、」


そんでこの雨の中?
本人はまるで気づいていないのだろうが
彼女は今にも泣き出しそうな顔をしており、
駅のホームで三人は話しこむ。
延々と愚痴を零していた はふと、
何で付き合ってんだこいつら、とか思ってるでしょう新庄さん。
突然新庄に話を振るものだから新庄は苦笑いを浮かべた。


「でも喧嘩多くね?」
「毎日って感じですよね」
「はは、仲いいんじゃん」
「そ、そうですか・・・・・・?」


毎度この喧嘩に遭遇した第三者は不思議と の話を聞いてしまい、
(それはもう聞かなければならないのではないかと
ちょっとした義務感すら抱く)
その都度中てられるのだが当人達はその事に気づいていないらしい。
そう言えば前回は若菜がその目に遭ったらしく、
あの馬鹿ップルが、部室でそう漏らしていた。


「おい」
「え?」
「あれ」


しゃがみ込んだ とそんな の前に目線を合わせた岡田。
一人壁にもたれ前方を見ていた新庄が岡田に声をかける。


「ご登場だぜ」
「あ」


やはり傘もささず雨の中駅に走り込んで来た一人の男が
岡田と新庄の姿を目にし少しばかり所在なさ気に雨粒を払った。




新庄と岡田は帰路についた。
と赤星は互いに無言のままプラットホームに。
終電が間近に迫りサラリーマンの姿が増える。


「つーか」


何であの人達と一緒にいたんだよお前。
赤星は天井でも見ながら口を開いているのだろう。
あんたこそ何してんのよ電車になんか乗らない癖に。
本当は分かっている。


「あー風邪ひーた、最悪」
「寒・・・」


赤星の手には が置き去りにしたバックがあり、
雨に濡れているところを見ればそこまで頭が廻らなかったらしい。
先に礼を言うべきか否か―――――


「あのさ・・・・」
「お前が悪ぃ」
「・・・・・は?」
「お前がいっつもやってる事しか俺はしてねーし」
「何が!?」
「分かってんだろ馬鹿、マジ馬鹿」


知らねー男も知ってる男も関係ねーんだよ。
先に話してんのお前だろっつーの。
赤星の腕が伸びた。
何かしら文句の一つでも投げたいところだが、
こればかりは にも非があるのか。


「あ・・・」
「お互い様だっつーの」
「け、けど・・・」


あたしの場合は深い意味とかないし!!
俺だってねーよ。
何故だろう、自分が負けている気が。


「俺もお前もそこまで出来てねーの、分かるっしょ」
「そ、それは・・・」
「人間」


まったくどこまで見越せば気がすむのか。
初めて自分から折れた赤星を見たような気がした。




「お前さぁ」


もー少し ちゃんに優しくしてやれよ(つーか俺らが迷惑なんだよ)
翌日部活でそう言われた赤星は一言、
心配しなくても大丈夫っスよ、相変わらず可愛げのない返答を。
お前ムカつくんだよ!!喧騒の中ふと視線を上げれば、
やれやれと言わんばかりに首を振りながら笑っている
岡田と新庄を見てしまい、些かバツが悪かった。
しかし昨日の目撃者があの二人でよかったと、
少しだけ思ったりもした。

再UP
岡田と新庄ペアはこういう役回りです
2003/11/19