I BE ACE

両手を挙げる。
何となく最初から分かってたぜ俺は。
少しだけ様子を伺う。
がやけに冷たい眼差しで自分を見るものだから笑った。
本当は最初から分かっていたのだ。
騙し騙しでも関係を続けた理由は何だ。


「なぁ、」
「無駄口は叩かない方が賢明よ」
「なぁ


エースが一歩踏み出した。


「俺はよ、皆から愛されちまってんだ」


でそう馬鹿ではない。
どちらかといえば利口な方だ恐らく自分よりは。
間違いに気づいている事だろう、それでも少しばかり遅すぎた。
何を目的に近づいてきたのかは分からない。
それでももう終われない。


「何だってやるぜ、俺はよ」


まずはお前の居場所をなくしてやる。
銃口を握り締めの手首を握り締める。
が少しだけ泣きそうな顔をした、エースは笑った。
そうして頬に口付けゲームはスタートだ。


目的は一つ、の居場所をなくす為。
手助けは無用明日の朝までに全て片がつく。
邪魔者は一人だけ、の行動に制限はない。
まさかお前俺が何も知らねぇと
思ってたわけじゃねぇよな
後づ去ったの背に腕を回したエースは耳側でそう囁いた。









一足遅れたは仲間の元へ向かう。
毎度気をつけていたつもりが見抜かれていたらしい。
火拳のエースに近づきあの男の寝首を掻く。
実際生きた心地はしなかった。
ターゲットにするには随分的外れな相手だ。
真っ向から勝負を挑むべき相手ではない。


―――――エース


恐らくはったりではないのだろう。
それにエースという男がはったりをかますタイプだとは思えない。
ならば全てが最初からばれていたという事か。
エースの姿等どこにもなく只冷えた闇が果てしなく続く。
酒場で偶然を装いエースに話しかけた。
視線だけを上げたエースは何も言わずそれに答えた。
当初の作戦通りエースの側に、
異議一つ唱えずエースはを側に置いた。


―――――エース


お前楽しそうじゃねぇな。
ふと言われは息を飲む。
胃が痛い、この男は怖い。
仮に最初から全てが筒抜けだったとしたら、
自分は何をどうしたらいいのだろう。
無理に笑顔をつくったは視線を逸らした。
何故この男は自分を側に置くのだろう。
何も身体だけが全てではないはずなのにそれなのにエースは。


「エース!!」


お前が楽しくねぇ原因を壊しちまえばいいんだろ。
名を叫ばれエースはゆっくりと視線を上げる。
そうだ、最初から全て承知だった。


「遅かったなぁ、


轟々と燃え盛る建物とエースがいた。









我を忘れる事すら忘れ只呆然と立ち尽くした。
闇夜に栄える赤がエースすら飲み込みそうだ。
そうだこの男は元々炎なのだから心配する事もない。
最初から心配等してはいない。
一足どころか随分遅かったのだろうしきっともうみんなは。
危機感は覚えていた、恐らく皆が覚えていた。


「もうやめちまおうぜ


いい加減飽きちまった。
オーバーアクション気味に両手を挙げたエースはそう言い、
手の平上に炎の子が踊る。
俺はお前が気に入っちまったからよ。
炎に隠されたエースの表情はまったく読めない。


「来ないで」


思わず口を出た言葉はエースを誘うのか。
逃げ出したいのは山々だが、
今の時点で背を向けるわけにもいかない。
は後退する。


「どいつもこいつも俺を好きになっちまうからよ」


毎度知らねぇヤツばっか顔見せんだよな。
エースが近づいて来る。


「楽しそうじゃねぇな、


目の前の光景は全てがフィクションなのかも知れないし、
もしかしたらこの男もフィクションなのかも知れない。
初めて見る表情のエースは気だるそうに小首を傾げ悠々と佇む。
そう悲しむ事ではないのかも知れないし、
余り淋しくもないのだろうか。
力なく地面に座り込んだは俯き、
黒い地面に粒がパタパタと音を立て落ちた。
悲しくはないのかも知れないし、
恐ろしさで泣くほど幼くもないはずだ。
これは雨かも知れない。


「どっか具合でも悪ぃのか?そりゃ、心配だな・・・」


エースの影がを覆い、
は顔を上げる事もなく只地面を見つめた。影が。


「そう拗ねんなよ


俺も拗ねねぇからよ。
しゃがみ込んだエースは、
の顔を覗き込みながらそう言い頭を撫でた。
今まで一度として耳に入ってはこなかった
エースの声が今になりやけにクリアに届く。


「さぁて」


そろそろ行くか
吐き出す呼吸が雑音にすら聞こえる。
エースの声が鮮明に響いた。

再UP
2003/11/10