焔がゆく

あたしの手紙が届いたらもうあたしを探さないでねエース。
のくれた手紙の冒頭に記されていた一文だ。
カモメが運んで来たそれは
塩水に濡れほとんどが解読不可能。
燦々と輝く太陽の下エースはそれを見届ける。


「そりゃ、ねェなぁ・・・」


うんうんそりゃあねェ。
泣きそうな顔を歪ませ笑いエースは溜息を吐く。
きっとにも理解出来るはずだ。
今のこんな曖昧な気持ちを理解するのは容易いはずだ。
埃に塗れた街で知り合ったは一人旅立ち、
エースはそんなを追いかけていた。
はどこか違う海にいるのだろう。









「あっちに行って」


そんでそこのカーテン引いて寝てよエース。
いいじゃねェか一緒に寝りゃあよ。
毎夜争われる際交わされる言葉だ。
外は雨が降っている、エースは余り優しくなかった。


「一人寝は淋しいぜ、
「あんたはね」
「いいやお前も淋しいはずだ」


互いに間合いを取りながらの緊迫した関係。
宿無しのエースをその気もないのに拾ってしまった
毎夜脅かされる貞操の危機。
あんた勝手に転がり込んだ癖に何て真似してくれてんのよ。
抱き締められたはそう呟いた。
いつかエースはここを離れどこかへ行ってしまうと分かっていた。
窓の外が黄金に輝く時間帯が一番怖かった。


「お前は何やってんだ?」
「何って・・・関係ないでしょ」
「つれねェなぁ」


ベッドに肩肘をついたエースは無論上半身裸の状態で、
腰の辺りに白いシーツをかけたまま膝を立てている。
の肩に緩く手を置きこちらを向かせようとするが
は向かず太陽の出ない窓を見つめていた。
どうやら互いに秘密の多い関係らしい。


「あんた、海賊なの?」
「お前は、賞金稼ぎかい?」


の髪を指先に絡ませた。
は何も応えずエースも何も応えなかった。









「いっ・・・・!!!」
「お転婆は価値を下げるぜ
「あんたが行かせた仕事でしょ」


右腕を処置されている
火傷に似た痺れを伴う裂傷部分を見つめる。
ツンと鼻につく消毒液が目の前で揺れる。
懐かしさが香った、雇い主にばれないよう消毒液で隠した。


「最近ミスが目立つんじゃねェか?」


そんなに俺に飼われてェか。
大きな手のひらと長い指がの髪を撫でる。
まさかそんなわけないでしょう。
ニコリと笑ったはそう言い包帯の巻き終えられた腕を振る。
痛みなど隠すほかない、弱っている姿など見せられるわけがない。


「・・・そう言やぁ・・・」


俺のカモメが一羽旅行に出ちまったみてェなんだが。
じわじわと真綿で首を絞められているようだ。
は何の話?そう言い腰を上げる。
完璧な設備はドフラミンゴ自身を彷彿させる。


「頭ん中、空っぽにしてやろうか」
「・・・」
「余計なモン抱えこまねェですむぜ」


そういえば数秒前から又雨が降り出している。
窓の外には突然の雨に濡れてしまう人々が群れの如くおり、
それなのに薄く太陽が姿を見せている事に優越感さえ覚えた。
エース、エース。忘れてよエース。
どれだけでもそう呟き結局忘れきれないのは自分なのだとは思う。

再UP
2003/12/24