A LITTLE DAY

まったく白い空間が自分の部屋だとは思えない。
ワンルームのドアを開けたは暫し現状に目を奪われる。
脱ぎ散らかされた衣服や床に転がるペットボトル。
点けっぱなしのTVからは外国の言葉で延々と叫び続ける女の声が。


「・・・・・最悪」


今日は朝からバイトだった。
出てくる時はどんな感じだっただろう。
朝方からこの程度の室内だったのかも知れない。
履き散らかされたサイズの大きいスニーカーを
わざと踏みつけたは大きな音を立てドアを閉めた。








「ちょっと〜〜!!」
「・・・おぅ、」
「起きてよスモーカー」


昨晩の情事をそのままにスモーカーはベッドに埋もれていた。
一体どれだけ寝る気よ、ってか学校行ってないの?
今日補習だって言ってたじゃない。
がそう言えばスモーカーは無言のまま腕を伸ばし、
をベッドに引きずり込む。


「ちょっと・・・!!」
「口五月蝿ぇ事言ってんじゃねぇよ」
「あのね・・・・ん、」


苦味の強いキスを受けながらは仕方なしに目を閉じる。
寝起きのスモーカーはやけに不機嫌で
そうしてそんな時の彼には絶対に敵わないのだ。
バイトすら辞めちまえと言うこの男に
果たして何を言えばいいのか。


「ん、ん・・・・」


ねぇちょっと今日は一体何の日だか知ってるスモーカー?
放り投げられたバッグには彼の好きそうな腕時計が。
しかしスモーカーはあまり気にならないのだろう。
自堕落な生活を送るには欠かせない、
安い割には度数の高い酒を飲みながら、
の服を脱がせる。
どうせ明日の朝が来るまではずっとそうだ。


「ちょっと・・・・ヤダって」
「いいじゃねぇか」
「嫌」


ふいに苛立ちが募りは身体を離す。
決して悪い人間ではない。
しっかりした人間だとは思う、だが。


「どうした?なぁ
「別に・・・別に」


つまらなさそうに視線を逸らしたを見たスモーカーは
只一言悪かった、と。
どうしてそこで謝るのよスモーカー。
は乱れた衣服を直す。
何も分かってない、
何も分かってないよスモーカーは。
そう言い手中からスルリ抜け出した
バックからはみ出した箱を手に取り
スモーカーに投げつける。


「何・・・!?」
「あたしちょっと用事思い出したから!!」


彼女が突然不機嫌になった理由は。
スモーカーは額にあたったそれを開きながら後悔を募らせる。
がバイトを続ける理由、が怒った理由。


「・・・・・失敗したな、こりゃあ」


誕生日なんてものは忘れていた。









そもそも用事なんてものはないのだ。
只あの場にいたくなかっただけだ。
スモーカーはきっと悪かったなんて言葉を。
酷く参りそうになるトーンで囁くのだろうし、
それを聞くのも悪くはない。


「あ〜あ」


実はスモーカーの為に何かを買う行為自体が凄く恥ずかしく、
それを渡すのも恥ずかしかっただけだ。
あのまま朝までやり続けるのも嫌ではなかったし―――――
だったら何を求めたのか。
愛の言葉?
フン、そんなもの笑い飛ばしてやる。


「・・・・・」


目に入ったのはスモーカーの好きなクラッカーだ。
は考える。
これを買ってそうして
いつもより値の張る酒でも買って
その足で帰ろう。
だって今日はスモーカーの誕生日だから。
そうして彼には至極甘い自分は
彼の事が凄く好きなのだろう。









「淋しかった?」
「寝てたぜ」


明かりもついていない室内には葉巻の火だけが浮かび上がり
心なしか片付けられた室内を見たは少し笑う。
何?ちょっとは気でも使ったのスモーカー。
がそう言えば
可愛くねぇ女、そう言われ少しむかつく。


「折角買って来たのに」
「ああ?」
「もうやんない、あたし一人で食べる」


舌を出しそう言いきった
スモーカーの鼻先にブランデーのボトルをつきつけ
スモーカーはの足を掴む。
どうにも弱い箇所を見つけるのは彼の得意技らしい。
思わず蹲ったを引き寄せたスモーカーは
そのまま床にを押し倒した。


「全然、」
「何?」
「反省してない」
「悪ぃ悪ぃ、」


耳傍で囁かれたハスキーな声。
は少しだけ息を飲み目を閉じる。
でももう別にいいだってあんたのその声反則。
が抵抗しないのをいい事に、
スモーカーはそのまま行為を続け、
案の定朝日が昇る。
そうして背中が痛いなどと
呟くを抱き締めたままベッドに戻るのだ。

再UP
2003/11/19