アテンショナルラブ

絶対は髪を伸ばした方がいいと思うわ。
ヒナはそう言いながら短い毛先を弄ぶ。
海軍士官学校を卒業した割りに
海軍という職に就かなかった
今現在不安定に違いない仕事をしている。


「邪魔なのよ仕事にね」
「学生時代は長かったのに」
「うざったいんだもん」


それよりもヒナ情報頂戴よ。
の肌には生傷が絶えず、
ヒナはそれを眺め再度溜息を漏らす。
そんな仕事よりも戻ってらっしゃいよ
あなたと一緒に仕事がしたかったのに。
は笑った。


「駄目駄目、海軍なんて柄じゃないわあたしは」
「どうして」
「正義って二文字が嫌いなの」


が学生の時、の家族は殺された。
海賊の仕業なのか山賊の仕業なのか―――――
それとも他の輩の仕業なのかは分からない。


「どこにいる?今度の貯金は」
「・・・・・・・」


の仕事について
強く出る事が出来ないのは確信がないからだ。
今の状況でを納得させる事は到底出来ないだろう。
彼女は過去の出来事から
彼女にとっての正義を見つけ出している。
それが結果間違いであっても。


「あら、」


これあたしの領域じゃあないわ、
管轄はスモーカー大佐、彼よ
やれやれと言わんばかりには腰を上げる。
きっと誰も自分が間違えているなどとは
思いもしないだろう。









「・・・・・・・お前」
「何」


突然の来訪者、
スモーカーが不機嫌そうに視線を上げれば
そこにはの姿があった。
左目の周りを象った刺青は
ここ最近急に力を持ち始めた賞金稼ぎの集団の証だ。
テメエ何企んでやがる。
スモーカーがそう言えば
何よとっ捕まえる気?
がソファーに座る。


「好きにすればいい」
「何?」
「あたしは止めやしないわよ」


あんた達が賭けた賞金目当てに
コレから先どれだけでも捕まえてやるわ。
殺しはしない、
極力生きたまま手渡してあげる。
それで文句はないはずだけど。
学生時代飛び抜けて優秀だった生徒は
今はアウトローまっしぐらだ。


「余計なお世話だぜ
「仕事なのよごめんなさいねスモーカー」


新しく組織された集団の内情はまったく掴めず、
個人で賞金稼ぎをする分にはまったく問題がない。
しかし。


「今度はコイツ?」
「勝手に資料を見るんじゃねぇ」
=uふうん」


コイツもうお仕舞いね。
指先で写真を弾いた
嫌に皮肉な笑顔を残すものだから、
スモーカーも余計な口を挟んでしまう。
は明らかに向こう側の人間になってしまった。


「どうする気だ?」
「何が」
「テメエだ、」


何もかんも全部否定して何が残る。
の心は最早動じはしないのだから、何が起こっても。


「さぁ、」


何か残るだなんて思ってないわよあたしは。
はスモーカーに背を向ける。


「おい!!」
「又来るわ」


嘘吐きやがれ。
はもう戻らないだろう。









「あら」
「・・お前か」


珍しく波止場などに
姿を見せていたスモーカーにヒナが寄る。
貴方こんな所で一体何してるのよ。
ヒナがそう言えば
別に何もしてやいねェぜ。
スモーカーはそう言う。


「そうそう」


昨日が来たわ賞金首引っさげて、海軍的に散財よね。
ヒナは笑いながらそう言うし、
きっとそれは正しいのだろう。
スモーカーはポツリと口を挟む。


「あいつは」


どこにも行かねェなんて戯言を抜かしてやがった。
恐らくは過去の話だ。
とスモーカーが
付き合っていたという話は聞いた事がなかった。
しかし噂は常に。


「もういやしねェ」


葉巻が薫る。


「戻ってくるわは」
「さぁな」


あいつはもっと別のモンを待ってやがる、
それもずっと一人でだ。
あの日が全ての境目になった。
何となくぼんやりとの目指すものが見え、
その都度スモーカーは
お願いだから戻って来いと願い
全て無視される。


「君は」


何を待ってるの。
ヒナが思わずそう問えども
スモーカーは答えはしない。
あいつが芯まで腐っちまう前に棄てちまうか。
眼差しは何を見据えるのか。



最近髪を切る暇がないほど忙しいそうよ。
スモーカーの言葉が脳裏を泳ぐ中、
ヒナは昨日見たの姿を反芻していた。

再UP
2003/11/19