for dear

悪かった、確かにスモーカーはそう言った。
悪かったじゃないわよ悪かったって一体何よそれ。
はそう言い塀の上で立ちすくむ。
もう一回ちゃんと言ってよ、
じゃなきゃあたしここから出て行けないじゃない。
スルリと牢を抜け出したはそう呟きスモーカーを見下ろす。


「笑わないでよ」
「なぁ
「動けなくなるじゃない」


が泣いてスモーカーが笑んでいる。
逃亡者と追跡者のラブストーリーなんて、
有りふれすぎていて笑い話にもならない。
珍しくおとり捜査なんかに手を出したのが運の尽きだ。
スモーカーはを捕らえはスモーカーを捉えた。
海軍だと知れた時のの顔が忘れようにも忘れきれず、
少しだけ後悔を、寝た直後だったと思う。
あたし逃げるわよ。
別れ際はスモーカーの耳側でそう呟き、
特に怒った様子もなく笑顔も渡さず。
そうして数日間の拘束期間の結果今に至る。









「逃がすわけにゃいかねぇ」
「あたしが逃げた方がいい癖に」



どうせ捕まったってあんたとは離れ離れになるんだし、
あたしの罪状はそう軽くはないしね。
にこやかに笑う表情とは裏腹にはとても悪質な海賊の仲間であり、
あの細腕には幾らもの血が絡んでいる。
濃い毒のような存在だ、一度味見すればもう駄目になる。
もう駄目になった。


「行きたくねぇ癖にな」
「何言ってるのよ」
「ここにいてぇはずだ、お前は」
「何?いて欲しいの?」


だったらどうする、否定もせず肯定もせず。


「迎えが来るか」
「さあ」
「男か?」
「さあ」


迎えが来るのは後数分後の予定だ。
迎えは男だ彼の予想は決して間違っていない。
すっと立ち上がったは海の方向を見つめ、
スモーカーはまだを見上げるだけだ。
あの海の向こうからあたしを迎えに来る男より
あんたの方がいい男よスモーカー。
の声ばかりが蓄積されている。


「・・・・・・バイバイ」
「・・・・・」
「バイバイ、スモーカー」


最初に裏切ったのはどちらだったのだろう。
哀しかったのはどちらだったのだろう。
愛なんて嘘だ。

再UP
2003/12/25