GOTE(マニュアル名称)





あたし洋平の事が好きなの―――――
そう告白された。
相手は同じクラスの
下校時の遭遇に始まり、突然の告白に些か戸惑う。


「洋平は?」
「あ、俺・・・?」


握られたままの右腕。
驚きのあまり何を話せばいいのかすら分らない有様だ。
そんな水戸の様子を伺った
一泊置き言葉を繋げた。


「じゃあさ、」


今じゃなくていいから、これでいいかもって思ったら返事頂戴。
にこやかな笑顔を浮かべ、そう言い切った
かける言葉等見つける事が出来ず、水戸は只々頷くばかりだ。
これはどうすれば。


「洋平!!」


何やってんだ?
うおっ!?さんじゃないデスカそんな所で一体何を!?
丁度水戸に隠れる形に立っていたを目にした花道は
怪訝な日本語を駆使し、はそんな花道を目にし笑う。


「今ね…」
「ちょ、ちょっ…!!」


ペロリと告白の事実を口にしそうになったの唇。
それを思わず手で押さえてしまい、水戸は相当焦るのだが、
それよりも焦っているのは恐らく花道達の方だろう。
お前一体何やってんだ!?
駆け寄る仲間達は口々にそう言う。


ちゃん大丈夫か!?」
「洋平お前なぁ…」
「わっ、悪ぃ…!!」


急接近した際の間近に見たの顔だとか、
呆気に取られたその表情だとか。
手の平についたグロスの感触が嫌にリアルだ。


「あはは、気にしないで」
「コラ洋平さんに謝れ!!」
「いいって桜木君」
「しかし…!!」


これが俗にいう僕らのハジマリ。














翌日教室で顔を合わせれば彼女は普段と何ら変わりなく、
昨日の告白が記憶違いのようにも思えた。
途端萎縮した足元に眩暈すら覚えればが声をかける。


「おはよ、」
「…おう、」
「今日早いじゃん」


今すぐにでもオッケーしてよかったはずなのに言葉が出ない。
否あの時に承諾してもよかったはずなのに。
柄でもねーよ緊張なんて。
の表情は変わらない。


「ちょっと!」
「あ、ゴメン」


友人に名を呼ばれはそそくさと席を立つ。
タイミングを合わせる事が出来ないまま、
只ダラダラと時間ばかりが過ぎ、
の告白から大よそ一週間。
何一つ進展のないままに
時間ばかりが過ぎ去っていった。














「あれ?」


どうしたのちゃん元気ない?
電車待ちの間ふと声をかけられれば
例の桜木軍団の一人である野間忠一朗がいた。
些か驚きはしたものの
は顔を上げ笑顔を向ける。
水戸の姿は見えない。


「電話待ち?」
「え?」
「いや、手に持ってるから」


野間の背後、楠がそう言い、
は力なく笑いちょっと待ってるだけと答えた。
二人とも何となく想像がつき
(大体分かっていないのは花道くらいのものだ)
互いに顔を見合わせた。


「…もしかしてさ、」
「何?」
「二人とも、知ってる、とか…」
「…さぁ??」
「知ってるんでしょ!」


顔を赤くしたはしまった、
そう言わんばかりに溜息を吐き出し、
しかし開き直ったのだろう(酷く前向き)
すっくと立ち上がり二人を追及し始めた。


「…何て言ってた?」
「え?洋平?」
「そう!!」


一週間も音沙汰ナシという事はもしかして断られるのか。
大体普通一週間も待たせないでしょう!?
水戸の知らぬ場所、
彼女の想像ばかりが果てしなく繰り広げられる。


「いや、でも俺達よ…」
「何?!」
「アイツから何も聞いてねーから、」
「え?」
「そうそうあいつはペラペラ喋んねーからな」
「どっちかってとちゃんの態度で分かったよーなモンだし」
「(ああそうか・・)」


でもあれから今まで何も返事してねーのアイツ。
意外そうな顔で楠はそう言う。
らしくねーなー、と。
待ち続けるのも限界だ、きっとこれ以上は待てない。


「…なぁちゃん、」
「え?」


だったらもうちゃんから押した方がいいと思うぜ俺は。
野間の一言に楠は一瞬間を置き激しい同意を。
そうだぜちゃんからも一回電話してみなよ。
やけににこやかな彼らの心中は、果たして。


「…でも、」
「いやいや絶対そうした方がいいって!」
「あ、おい電車来たってよ」


そそくさと車両に乗り込む二人を見送りながら
は深呼吸し通話ボタンを押した。
一度躊躇した指はメールを作成する。


「えい!!」


押された送信ボタン。
はそのまま座り込んだ。














「あ」
「何?」
「いや今受信メール見てたんだけど」
「で?」


こんなメールが発見されました。
液晶画面を見せた水戸にが近づく。
短いメールだ。


『××駅で待ってます』


「えっ…ちょっ…消してよ!!」
「いや〜勿体無いだろ、これは」
「か、勘弁!!!」
「あん時は走ったよな〜〜我ながら」


もう俺が喋る前にお前抱きついてくるし、
そう言えば泣いてなかったっけか?
笑いながらそう言う水戸から
は携帯を奪い取ろうとするが如何せん無理だ。


「わっ!!お前…!!!」
「あ!?ちょっと…!!!」

「え?」


そう言えばあの時のグロスの感触が
手の平から唇に変わったなあと水戸はぼんやりと思い、
何となく幸せっていうのはこういうものなのかと感じていた。

再UP
2005/1/15