L-lover





「ちょっとおっさん勘弁してよ!!」


数分前から一人のおっさんがしつこく言い寄ってきていた。
場所は渋谷、時間帯が遅くなってしまったのは学校の用事のせいだ。
は馴れ馴れしく腕を掴むその男に向かい叫ぶ。


「あんた一体何なのよ!!大体さぁ…ちょっと!?」


どうやらこの男はを勘違いしているらしい。
何にかといえば、援助交際の相手だと。


「色んな意味で凄く迷惑なのよ!!いいからその手を離せっての!!」


しかも周囲は最悪な事にもホテル街。
近道しようと通ってしまったのがまずかった。
今は夜、いつもは昼か夕方だから―――――


「ちょっ…テメエ、このっ!!」


背後から露骨に胸を揉まれ、つい性根が姿をあらわす。
短いスカートの事などの頭からは吹き飛び、
紺のハイソックスで飾られた右足が大きく空を切った。
後ろ回し蹴りの構え、の足が男の首元に決まる。


「死ねっ!!」


音を立て崩れ落ちた男にそう吐き捨て、
足早にその場から立ち去った。


「足癖の悪ぃ女だ」


たまたまその様子を目にした鬼塚は、そう呟き笑った。














幾度か見た女だった。
渋谷で帝拳の制服を見る事はあまりない。
だから余計目に付いていたのかも知れない。
ギャルが闊歩する中短く切られた髪の毛、それ故強調された大きな目。
同じ学校の誰かが名前を知っていたが、忘れてしまった。














「何!?又ぁ!?」


翌日は又もや、今度は違う男に言い寄られていた。
今日学校で昨日の事を話せば笑い飛ばされたばかりだというのにだ。
あたしは違うって何度言わせりゃ気が済むのよ。
段々と苛立ち始めたが指を鳴らし、
男を殴りつけようとした瞬間、目の前に火花が飛び散る。
無理に振り向いたが目にしたものはスタンガン。


「テメエ…」


テメエが持つモンじゃねぇだろ。
の身体がズルリと倒れ込む。
些か強引なやり方で男はを落とす。
しかし今回もやはり目撃者はいた。














「ん…」


背中がズキズキと痛む。
目を開きながらボンヤリと思い出した。
変な男に言い寄られて、そして―――――
そして何かスタンガンで。


「あっ!!」


気を失っていたらしいと気づき、は飛び起きる。
見知らぬ場所だ、しかも露骨に室内の装飾はラブホテルだ。
しまった、あたし連れ込まれた?
衣服を見る限りでは乱れた様子はない。息を吐く。


「気づいたか?」
「あ、あんた誰?」
「楽翠の鬼塚」
「え?」
「お前は。こんな所で何してた」
「え〜いや、あたしは…」
「その制服帝拳だろ、名前は」 「…いやね、そんな事言ってるんじゃなくて」
「心配しなくていい、俺は何もしてねぇぜ、


酷く優しく(顔に比べ)そう言い鬼塚は笑う。
ここどこなの?がそう聞けばラブホテルだと答えた。
お前は気絶してるし他に行く所もなかった、仕方ねぇ。 携帯を開けば時刻は深夜二時近くだ。
電車もうないじゃん、
は親に連絡をいれるが取りはしない。
多分今日は家にいないのだろう、自由な両親だ。


「あ、の…あんたどうするの?渋谷の人なんでしょ?」
「お前は」
「あたしは…」
結局はその日ラブホテルに一泊してしまう。
場所が場所だ、酷く警戒するを鬼塚は笑い、
何もしねぇよ、そう言う。
助けてくれて、ありがとうね、
そう言ったに鬼塚は気にするなと答えはしたが―――――
そのままは寝入ってしまった。


「…そこまで信用されるとはな、まあ思いもしねぇな」


無防備なの寝顔を見ながら、鬼塚はタバコに火をつけた。


再UP
2003/11/19