それを儚さと言わずとも





彼女はそう願った。
線の細い、美しい彼女は
どこかに逃げてしまいましょうとそう口癖のように言っていた。
京楽はそんな彼女の戯言に付き合い、
それでも逃げる事は出来ないと知っていた。
忙しない毎日よりももっと静かなところで愛を育みたいと、
そんな刹那な願い。
あたしが行くんじゃ駄目なのよ
あんたに攫ってもらわなきゃ意味がないわ。
愛されていたのか。



「なぁに?」
「ボクは逃げられないのさ」
「知ってるわ」


こんなボクでいいのかい。
そう笑った京楽の頬を包み込んだの手。


「あたしは逃げてしまいそうよ」
「捨てられるのかな、ボクは」


指を噛んだの姿が時折脳裏に浮かぶ。
あの赤い残像、逃げ切れなかった末路。それは。



再UP
2004/8/25