I WON'T

その手の話を聞いたのはそれこそ初めてではない、
事実身の回りでもよくある事だと。
葛西は一人昨日言い渡された
との約束事について頭を悩ます。

「・・・・葛西?」
「・・・何だよ」
「いや、ボーッとしてるから」

珍しいな
ふと声をかけられ視線だけを送ればそこには坂本が。
なぁお前やった事あるか?
言い出したいような言い出せないような―
結局は言い出せないまま今葛西はとあるゲーセンにいる。







ざわざわと騒がしいそこに足を踏み入れれば
周囲の視線が否応なしに集まり葛西は一瞥をくれる、
絶対的に視線を合わせてはならないと思ったのだろう。
瞬間何事もなかったかの如く喧騒がぶり返すのだから
それはそれで大したものだ。
理由は下校時のリンの一言。

「なぁ、」

今日ゲーセン寄らねぇ?
特に皆他にする事もなく断る理由もない。
あまり上好きな場所ではないが
(大体皆は葛西が嫌がると思ったらしいが)
との約束もある事だ。葛西は別にいいぜ、と。

「珍しいな、」
「ああ?」
「お前が行くなんて」
「・・・いいじゃねぇか」

だからといって来てみれば他にする事もなく
今現在葛西はパンチングマシーンの前に、
どうやらリンの狙いはここでバイトをしている女の子らしい―
葛西!!新記録出せよ!!
浮き足立つリンが些か耳五月蝿い。

「どの娘?」
「あの今プリクラの前にいる・・・」
「あ〜リン、ああいう娘好きだよな」
「るせぇな坂本!」
「はは、照れんなよ」

例の四文字に反応している場合ではない、
よく分からないまま別にいいぜ、そう答えてしまった昨日。
よくよく考えてみれば相当恥ずかしい―
ここ数年写真など撮ってはいない。

「なぁ葛西、」
「んだよ」
「新記録出たらな、」

カウンターに景品交換に行けるんだと。
笑いながらそう耳打ちする坂本の背後
異様に気合の入ったリンが存在す。
知るかよ、そう呟いた刹那殴られたマシーン。

「・・・」

周囲の音が一斉に止んだ。









「・・・」
「何やってんの?
「・・・」

数分前から仕切りに電話をかけているに和美が声をかける。
繋がんないんだよね、昨日の強引な約束が原因だろうか。
発端は和美と勝嗣のプリクラ―
嫌がる勝嗣を無理矢理画面に入れ
笑顔の和美が印象的だったあれだ。
和美の携帯の裏に貼り付けてある。

「ねーまだ・・・?」
「あ、ゴメン」

は携帯を切り改札を抜ける、
何となく和美と勝嗣のプリクラを目にし
無性に欲しくなった、
その話を昨日葛西の部屋ですれば
葛西は予想外にも構わないと。
正直自身あまり好きな方ではない為
非常に驚いたのだが無難に喜びはした。

「お?」
「・・・あれ?」
「何してんスか」

乗り合わせた電車内、海老原達がいた。









当たり前のように首を鳴らした葛西の背後で低い声援が沸き起こる、
無論数値は新記録をマークし一人大喜びのリンは
ペロリと吐き出されたシートを手に取り
我先にとカウンターへ。

「ハハ、凄いな葛西」
「るせーよ」

手慣らし程度の軽いパンチ、
殴った直後鳴り響いた大音量のファンファーレに少し驚いたくらいだ、
何もあそこまでやらなくてもいいじゃねぇか―
リンはカウンターで話をしている。

「なぁ、」
「うん?」
「あの・・・」

数分前からひっきりなしに客の入るストロボ激写の立体プリクラ、
それを指差そうとした葛西は又もや邪魔を受ける―
おい葛西!!葛西!!
大声で名を呼ぶリン。

「・・・何だよデケー声で呼びやがって」
「写真!!」
「あ?」
「写真撮ろうぜ!!」

つーかこの娘が撮ってくれんだってよ、
カウンターの中ではあからさまに迷惑そうな表情を
無理に笑顔で隠した従業員が一人、
只でさえリンの登場に辟易していた時に
葛西達が集まってしまったのだから仕方がないのか。

「どうする?葛西、」
「やんねーよ馬鹿」
「けどアレ・・・」
「何だよ・・・」

もうアイツ一人やる気なんだけどな 坂本はポラロイドカメラを手にしたお目当ての従業員の前
一人相当やる気でポーズを考えているリンを指差す。
今更止められはしない有様だ。

「・・・」
「どうする・・・?」
「(アレをどうしろと)・・・」
「いや、俺を睨むなって!」

極力写真など撮りたくはない―
大した考えも浮かばずここはもうリンの襟首でも掴み
無理に引きずり出すしかないだろうと葛西が考えた矢先、
ある種助け舟になりそうな偶然が起こった。

「ああ――――っ!?!?!?」

一体どういう事だっちゃれら・・・
突然の大声に思わず振り向けばそこには前田達のグループが、
あれ?前田じゃねー?何やってんだあいつ、
坂本は視線を向けそれと同じく葛西も目を向ける。

「お、俺の・・・!!!」
「やめろよ前田さん!!」
「恥ずかしいだろ!!」

パンチングマシーンの前で
一人大暴れ状態の前田を止める例の二人、
身体を背後から押さえられた前田は
パンチングマシーンを指差しながら何かしら口走っている。

「仕方ねーだろ!!」
「そんなもんだって!!」
「何だと―――!!!」
「何やってんだよ」
「ん?」

三人が一斉に顔を寄越し坂本は少しだけ笑う、
こんな所で恥ずかしい奴だな、
お前は坂本!?
奇妙な言葉を発した前田は二人を振り払い一言こう発した。

「俺の記録が消えてんだよ!!」
「え?」
「歴代チャンプは俺だったのに・・・!!!」
「もしかして、これかよ」

坂本の背後から突然姿を現した葛西に驚いている暇はない、
葛西の手に握られている引き換え券、
出された数値は確かに以前の前田の記録よりも大きな数字だ。

「か、か、葛西!!」
「何だよ」
内心ほっとしていた。これで写真を撮ることもないと。
リンは未だカウンターで話をしている。

「くっ・・・お前が記録を・・・」
「何だよ、」
「・・・仕方ねぇ、」
「あ?」

もう一度勝負だ葛西!!
前田は嫌に突拍子もない事を口走る、
勘弁してくれよ前田さん今日はそんな暇ねーんだって、
勝嗣と米示に引きずられその場を去る前田は
延々何かしら口走っている―
あいつ本当に相変わらずだな、坂本が笑った。

時代を感じさせる話だ。
何故メインにこれを持ってきたあたし。
無駄に長いしな。