僕は君を、

余り夢を見なかった。
別に今更な事ではない、只ずっと夢はみなかっただけだ。
だからきっとの姿なんてものも夢には現れないのだろうし
特に気にする必要などどこにもない。
浅い眠りがよくないだけだ、あれは自身をとても滅入らせるし
夢に変形出来ていない残像が所構わず姿を現すものだから。
ゆっくりと目を開けたスパイクはぼやけた天井を見つめた、
視点の定まらない目には換気扇が写った。


「・・・・・あれだ、」


あああれだ、幾度と泣くそう呟いたスパイクは指先で円を描く。
あの女はやたらとオレンジだったものだから
ついさっきの幻覚はオレンジ色だった。
仕事も入らないここ数週間、時間は過ぎるが音は止まる。
あの星の名は何だったか、こんな場所でも偏狭の部類に入るあの星の名は。


「・・・」


きっともう会わないだろう。











やけに錆付いたレコードがノイズ多めにかかっていた。
ブツブツと耳障りなノイズはその店内で犇めき合い
埃臭さも手伝いくたびれた感を増していた。
ブロンドの娘だった、偽モノのブランドが座っていた。


「どこの人?」
「ん、」


背を向けたまま娘は突然そう口を開き
タバコをくわえようとしていたスパイクは動きを止める。
カウンター内でシェイカーを振っていた店主は
やはり無言のままであり娘は振り向かない。


「そりゃ、俺に聞いてんのか?」
「他にいるの?」
「・・・・」


いないな、俯き笑ったスパイクはそう答え娘の隣に座った。
女の顔は淡い光に照らされぼやけている。


「匂いがする」
「は?」
「賞金稼ぎの匂いがする」


カチリ、セーフティの外された音と照準の合った瞬間。
娘の膝の上に乗せられた小さな銃が目に入る。
こりゃ参ったな、ロックグラスを揺らせながらスパイクが又笑った。


「賞金はかかってないはずだけどな、」
「関係ないわ」
「名前は」



でもあたしは名前聞かないわよ、関係ないもの、
宇宙の果てではどんな事も起こりえる。
だから突然殺される事だってあるし死ぬ事もある。
たまたまエンジンが愚図り近場の星に立ち寄っただけの事。
連絡も取れはしない。


「何しにここに来たの」
「偶然さ、」
「偶然なんてないのよ」
「だったら」


理由なんてのもないさ、
たった一つしかない窓から見える風景は
まるで絵の具の罅割れた油絵のようだ。
フラッシュのような閃光は
きっとどこぞの馬鹿が空中分解した証なのだろう。
の顔がはっきりと見えた、赤いアイラインが見える。


「それ、」
「何?」
「それ外してくれないか、」


どうにも落ち着かない。
が見ていた、スパイクは見ていない。
突然こんな事して悪かったわ、あたしちょっといかれてんのよ。
はそう言い銃を仕舞った。











の知り合いが賞金稼ぎに殺されただとか
賞金稼ぎを狩る集団が密かに動いていたり。
どの道一日はかかるのだし、そんな甘い考えでと寝た。
同意の上だ、もスパイクもそれとなく様子を伺っていた。
この馬鹿広い宇宙の中で再度会う事もないだろう。
口癖を思い出す、耳について離れない。


「・・・仕事もねェ、」
「おいスパイク、」
「場所も分からねェ、」
「ごはんごはん〜〜〜!!」
「どうしようもねェ、か」
「ちょっと邪魔なんだけど」
「・・・・・しっかし、」


うるせェなここは、諦めたようにそう笑う。

一回限りの夢って何だよ、と思いつつ。