『俄然透明な床、そして寒さ、そして泥濘』

が岸本と仲良さげに笑っている様子すら気に入らない、
お前何笑ってんねん馬鹿みたいやぞ、
思わずそんな悪態を吐けば五月蝿いわ、即座に返され南は案外簡単にへこむ。
大体お前俺の前で笑った事ないやんけ、胸の中でもう一度悪態を吐いた。
岸本と仲のいいは日がな二人で話しているし
まあ南がその中に入っていけばいいだけなのに
それが出来ないのは男の意地だと(南曰くな/BY岸本)
岸本を遠まわしに責めればちゃん俺に気ぃあったりしてな、
笑いながらそう返され尚むかついた。
下手に考えんでええやんかお前らしないな、
確かに岸本のいう事は一理ある。
今まで頭で考え行動した事などなく
どちらかといえば直球勝負、資本は身体や、なぁ。
に関してだけだ、こうも情けない有様なのは。


「お前、」
「は?」
「岸本の事好きなんか」
「・・・は?」
「どこがええねん」
「何?」
「お前騙されてんぞ」
「え?」
「俺の方がええ男やっちゅうねん」
「・・・・何の話なん?」


はまったくわけの分からない様子で南の顔を覗き込む。
自分から話しかけた割には少しだけ赤面し南は顔を逸らす。
顔を逸らせば教室の入り口でニヤニヤと
笑いながら立っている岸本の姿が見えた。
これはもう後には引けない状態だ、
もしかしたらは岸本の事なんてどうとも思っていないのかも知れない。
ここまで踏み込みようやく得た事実にしては余りに浅はかだ。
そうや俺がコイツ好きなだけや、は未だ現状が理解出来ず。


「・・・あんたなぁ・・・・」
「・・・・・・・」
「ま、ええわ」


恐らくバレバレなこの恋心、
はそれにあえて触れず日常を描き続ける。
本当はずっと前からそうだったのかも知れない、
はずっと日常を描き続いていたのかも知れない。
気持ちは分からない。見っとも無いかも知れない、
本当は隠しておくべき心なのかも知れない。
日常を壊す事が正しいとは思わない、それが間違っているとも思わない。
は携帯を見ている、誰かとメールでもしているんだろう。
毎日毎日こんな事の繰り返しだ、虚しいんだ。


「・・・・ほんまは分かっとるんや」
「・・・・・え?何か言った?」
「お前は分かっとるはずや」
「何言うて―」


隠すの止めやもうええやん、頭の中で弾けた。













今日の放課後部活が終った後に決戦は作られた。
突然南がそう言ったのだ、逃げんな、そうとも言われた。
拒否する事も意見する事もどうやら許されないのだろう。
それだけ告げると南は立ち上がり教室を出て行く、
気づけば入り口に岸本もいた。
悪い事などしていないのに何かしら気まずくなり
はわざと笑い顔を作り岸本も笑った。
南だけが笑わなかった。もしかすると南は、
そんな事を考えれば余りにも思い上がっているようで少しだけ罪悪感を覚える。
思い上がってんやないぞ阿呆、南がそう言えば万事オウケイ。
何だか今更な気がするのは仕方がない。













人気のない体育館にバスケットボールの木霊する音が、
重いドアをゆっくりと開けた
隙間から中を伺い背を向けている南を見つけた。
南がシュートをしている、ボールが宙でブレ外れた、溜息が大きく響く。
何故だか音をたてないようにと妙な気を使っていれば
ガタンと大きな音を立ててしまいは動きを止める。


「・・・・遅刻や」
「来てやってん」
「遅いわ」


思わず逃げ出したくなるような気持ちには悩む。
この空気には余り馴染みがないし
しかし決定的な空気のような気も、は南にゆっくりと近づく。
お世辞でも目つきのよくない南の顔が更に険しい、
あんた何か怒ってんの、
思わずそう言いそうになりは言葉を飲み込んだ。
今はそんな場面ではないだろう。


「・・・で、何」
「おう」
「やっぱ帰ろ」
「帰んなや」


南の口が開き少し遅れ言葉が届く。
寝て起きてそうしたら、いやそれよりも今自体が夢だったりして。
顔が熱くなるような気がした。
だからは手の平でそれとなく顔を隠した。

昔書いてた南青春話。