放電するキリン

今日も何ら変化のない生活を転がす予定だった。
は定位置にいるしそこに近づくのは容易い、
渡久地は偶然を装い今日もに遭遇する。
彼女の笑顔は何の為、出会いは芳しく尚著しい。
西園信二と一緒にいる現場を目撃した
一昨日から考えれば案外落ち着いていると渡久地は思う。
二人の間に関係が成立していたとしよう、仮にだ。
仮にそれが愛情なんてもので結ばれていたとしても
余り問題ではないのかも知れない。
そもそも嘘くさい、偽りだそんなものは。
西園サンは毎度唐突に姿を現すし
彼の行動を止めるストッパー等皆無だろうし 渡久地にしてみれば少しだけややこしいだけの話だ、
は今日もファイルを見ている。














「いらっしゃい」
「よぉ」


真っ白な室内にはグロテクスな白黒写真ばかりが乱立していた。
白黒写真というか要は死体の写真だ。
検察局から流れたきたもの公安から流れてきたもの、
兎角司法関係からの流れものは大体がここに留まる。
未解決事件を解明するらしい、にその気はあるのか。
磨知の事務所とは毛色が違いそもそもこのにそんな資格が、云々。
渡久地は室内を見渡し増えた写真に目を通す。


「コーヒーでいい?」
「いや、お気遣いなく」
「そこにあるから自分で入れてね」
「あ〜〜〜そっスか・・・」


あの現場が脳裏から離れず渡久地は思い描く、
何を喋っていたのかは分からずは今のままの調子だった。
長身の男を見上げ興味のなさ気な視線を投げかける。
二人の間に共通点等ないはずなのに。
それを思えば自分との間にも
そんなものはないという事に気づき少しだけ嫌になった。
の携帯が鳴る、渡久地は気にしない振りをする。
が携帯を取った。


「・・・・何?」
「それは嫌、」
「今度にしてくれない?」


素っ気無い態度のは相手にそう告げ携帯を切る。
チクリと胸が痛んだような気がした、気のせいだろう。


「冷たいね、」
「そうかしら」


突如出現したこの女は微かに笑い又書類に目を通す。
存在が何を記しているのか―
まったくの無関係というわけでもないだろう。
何かあるはずだ、まったく白すぎてこの部屋は嫌になる、頭が。


「俺見たんスよ、」
「何?」
「一昨日の晩―」


首を切られた女の前で渡久地は口を開いた。
開いた目には何もうつらずどうやら今の自分もそれと同じ状況のようだ。
写真は好きだと思う、死人の写真は嫌いではないが好きでもない―
色々と思い出させやがる。


「いや、」


やっぱいいや見間違いかも知んねーし、遠目だったし。
言い訳のようにそう言い渡久地は言葉を切る。
あんたはこんな事やってる人間じゃねーだろ。
自分に関わった時点で終局は近づくしもう手遅れかも知れない。


「そう、」
「そう」


の視線を感じ渡久地が振り返る。は書類を見ていた。














「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」


遠目で確認するだけならば容易い、
と西園とツーショットは今に始まったものではなく
ある種それ当然の様のようにすら思えた。
言い争いをしているのだろうか、西園信二相手にそんな真似が出来るのか。
が踵を返す、西園がの腕を掴む。
がそれを振り払う、西園がきつくの腕を引いた。
レンズ越しにうつるそんな二人はまるでシネマで渡久地は息を飲む。
作り上げられた人物像に作り上げられたセット、侵入する事など出来ない。


「・・・離して、」
「そりゃ、ど〜ゆ〜事だ?おい・・・」
「あんたとはこれで終わりって事、」
「は!何言って―」
「一緒にはいられないわ」


どこで入れ知恵されてきやがった、西園が近づく。
口元で囁き舐めるように見上げた、視線ばかりが彷徨う。
一回やっちまってんだもういいじゃねぇか、
それが間違いだったって言ってるのよあたしは、
単なる覗きと大差ない。


「助けてってか、
「いいから離して、」
「雨宮はこんな事しなかったもんなぁ・・・」
「どうだっていいのよそんな事は!!」


ならいいじゃねぇか、俺は結構相性いいんじゃねぇかって思うぜ、
腰に回された腕が強く引きの身体が西園の胸に収まる。
あの男に敵わないとは自分も同じだ、
ならばこんな感情は直にでも削除しなければ害が及ぶ。
胸の奥が痛んだ、チクリチクリと傷んだ。


「いてっ」


ヒールの先でつま先を強かに踏まれた西園が
そう叫びが駆け出している、
長い足を曲げ痛む箇所を撫でながら西園は
そんなの後姿を目で追いかけ笑っていた。
レンズ越しに視線がかち合う。
イエーイ、両手でピースマークをつくった西園が
レンズに向かい演技をし渡久地が立ち上がる。


「いい趣味してんじゃねぇか、お前」
「西園サンこそ」


けど今度見たら殺すぜお前、ピースマークの先が胸を吐く。
ああ、そんでアイツに余計な事喋っても殺すか、
西園の言葉ばかりが宙を舞い渡久地はレンズを下げる。やはり胸が。
互角に戦うには力の差が歴然とし過ぎていた、
何となくを思った渡久地は
相変わらずのしたり顔を見せ西園を見上げる。
又明日にでもあの不味いコーヒーを飲みに行けばいいだけだ。
がそこにいれば。

この頃はまだ西園が元気過ぎでしたよね…
放電するキリンは危ない。