床溜まりの唄

強くて安い酒と腰の軽くて可愛いお姉ちゃん。
それさえあれば他には何も要らない、必要なものはそれだけだ。
そもそも自分には大儀なんて存在しないのだし誰も希望さえしないだろう。
薄く軽く生きていくこの人生を。
黒い髪の女は情が深い、ブロンドの女はお喋りが上手い
―勝手な推測だ。


「・・・・お、」


じゃねェの。
したたかに酔ったロッドは酒ビン片手に近づいた。
近づけば近づくほどの姿は遠ざかるように思えた、
それでも近づいたのはきっと酔っていたからだと思う。
別に何も思いはしない。


「酒臭いのよあんた、」
「な〜にやってんだヨ」
「仕事」


あんたの嫌いなお仕事よ。
勤勉なは顔をあわせれば仕事をしているように思える。
ガンマ団内に設置されている監査部、
ハーレムの使い込みを暴いた部署でもある。


「あんたのトコの馬鹿隊長は、」
「ハーレム隊長なら奥で飲んでるぜ、」


つー事でオメェも飲まねェか。
ロッドがそう言いながら馴れ馴れしく肩に腕を回そうとも
はそれを手荒に払いのけ毅然とした態度で立ち尽くす。
初対面の印象はお堅い嫌な女、
俺としてはお近づきにゃなりたくねェな。
そんな事を話していたと思う。


「あたし達はあんた達から片時も目を離さないわ、」


それだけは覚えておくのね、はそう言う。
そういえば毎度そう言っている。


「ん?そりゃ俺に惚れてるって事かい?・・・」
「あんたって本当にどこまでもお目出度い男ねロッド」


だからあたしはあんたの事が大嫌いなのよね。
可愛げのないは余りにもはっきりとそう言い切り踵を向ける。
シンタローの命令だけを忠実に守るあの女が好きにはなれなかった。
無駄だと分かっていたからだ、手には入らない。
昔からその判断だけははっきりと持てていた、
自分が手に出来る玩具と手に出来ない玩具。
優しさでも何でもいい、形なんてのはなくてもいい。


がいたろ!!」
「ハ、ハーレム隊長・・・!!」
「おいショウ!小生意気な面見せやがれ!!」


本当は少しだけ迷っていた。













の背に立つ本棚にはきれいに整頓された書籍が詰まっている。
が座っているデスクには書類が山のように乱雑に散らばっている。
灰皿からは吸殻がもうじきあふれ出す事だろう。
赤いマニキュアやファンデーションが転がった絨毯の上。


「きったねー部屋」
「勝手に入り込んで随分な言い草ね」
「あら、いたの」
「・・・ロッド、」


ここはガンマ団本部よ。
はデスクに目を落としたまま口を開く。
ドアを開け侵入を試みたロッドになど関心さえないらしい。
今に始まった事ではないとさえ思えた。


「なぁ、あんたっていつも何やってんの」
「仕事、」
「仕事って、具体的にどーいうのよ」
「ちょっと待って、」


どういう風の吹き回しよ。
あんたがそんな事聞くなんて穏やかじゃないわよ。
そうだ、別にこんな面白くない話をしたいが為に来たわけではない。


「あんた俺の事、あんま好きじゃねーよな」
「あんただけじゃないわ、」


あたしは統制を乱すものは嫌いなのよ美しくないもの正しくないもの。
はっきりとそう言いきるの肩に手を置き上から咄嗟に口付けた。
かっと激情したの平手すら甘んじて受け入れた。
何をしたかったのかは未だ明白ではない。







なーんかあんた見てたら無性にイラついてさ、
けど妙に欲情もするって話。
俺は残念ながらあんたほど整頓されちゃいねーから。
本当の気持ちだなんて見えやしねー。
困らねェよ、それでも。

確か、一時期PAPUWAを書いていたんですよね…