凍える兎

一度来た道を又歩いている己に少し虚しさを覚えたが
望郷の念に浸っている暇はない。
今はそれどころではないしそれよりも成すべき事がある。
はミヘン街道を見渡し目を細めた。
後ではリュックとティーダが相変わらず騒いでいる、
あの頃の二人と被る。


「・・・
「何?」
「思い出すな」


アーロンの声が些か無機質に響きは振り返らず呟いた。
思い出してなんかないわよアーロン。
我ながら嘘が下手だと思った。













「そんなら俺を殺しな


ジェクトの言葉に一瞬戸惑ったは一拍置き
それが彼なりの酷く分かり辛いジョークだと認識した。
少し笑いながらそうかもね。
そんな相槌を返せば案の定ジェクトは笑い
の頭をポンポンと叩いた。
余りに子供っぽい扱いを受け
は不服そうにしながらも嬉しいのだろうか―
店の戸を閉め唇を舐める。
ジェクトからは熱い香りが漂う、
あれは何の匂いなのだろうか。
そういえば一度か二度強い香水の香りを感じた事があった。
あれは、そういう女の匂いだった。
自分とは違い割り切れる女の匂いだ。
両者割り切った時の匂いだ。


「じゃあ今度殺す」
「ほ〜う、そりゃいつだ?」
「今度よ今度、」
「そりゃ、楽しみだ」


本当は夢で見ていた、ジェクトが死ぬ夢を見ていた。


「何をもたついているんだ!」
「そらお怒りだぜ」
「行こう」


だから今日は何かとジェクトの顔を見てしまうし
そんなを不可思議だと思いながらジェクトも視線を追っている。
そんな事はあるわけがない、ジェクトが死ぬわけがないのに―
何故言いきれるのだろう。


「ねえジェクト」


あたしあんたの事が好きよ。
腕を取りながらそう言えば
ジェクトはそれこそ当たり前だと言わんばかりにを見下ろす。
だから今度あの香りがしたらあたしはあんたを殺すわよ。
言葉に表さずそう飲み込めば嫌な味がした。













そうして皆死んだ。
死んだという言い方が正しいのかはにも分からない。
アーロンが怒っていた、はどうする事も出来ず流れに沿った。
ジェクトが身を代えた、アーロンが怒っていた。
ブラスカはしっかりと目を閉じ歯を食いしばり―
全てが悔しくてたまらなかったような気がする。
泣いていたのだろうか。
あんな夢を見たせいかと少しだけ自分を戒めたような気がしたが
蝋燭は骨組みごと圧し折られた。













「ねえアーロン」
「何だ」
「あたし今度は折らせないわよ」
「何?」
「最期まで見てもらうわあいつに」


そうしてあたしがあいつの最期を見守るのよ。
はそう言い道を進む。
二度と恐れを抱く事はないだろう。それはアーロンも然り。
あの時の四人が出会った事は偶然ではない。 ザナルカンドから来たと言い張る男に出会った事は偶然ではないはずだ。


「・・・フン」


まったく呆れて言葉も出ん。
そう言ったアーロンはあの頃と似ているような感じがした。

ジェクトの話って幸せな感じじゃないんですよね…脳内でさえ。
必ずアーロンを絡ませるくせに彼メインの話はないという
まことに偏ったサイトですが。