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丁度一年前に好きだと言われた。
そうして一年後あいつには既に彼女が出来ていて
そんなあいつを今更ながら好きだなんて我ながらまったく馬鹿だと思う。













桧山から電話がある時は大抵例の彼女と喧嘩をした時だ。
どうのこうのと相談を受ける
そんな状態が哀しくもあり嬉しくもあった。
はテーブルに並んだマニュキアを眺めながら
ぼんやりと桧山の話を聞いていた。
一年前にもこうやって電話をしていて
発作的に好きだと告げた桧山に

冗談でしょ、そう答えあの話はなくなった。 しかもあの時は思い切り安仁屋の事を好きで(笑っちゃうね)
桧山に安仁屋の事に関して相談をしていた。
結局安仁屋の事は一月も持たず(女癖の悪さがちょっと)
その後少しだけ誰の事も好きではなくふと桧山の事が好きだと気づいた。
気づいたら最後桧山にはとっくに彼女がいた。
しかもが後押しをした二人だ。
彼女は一つ下の子で赤星達と同じクラス。
今も平穏な関係を続けている。
それを壊す事は出来ないだろう、二人共嫌いではないのだ。


「・・・・・・で、ど〜すんの?」
「さぁ〜〜あいつ何で怒ってんのか俺分かんねーし」
「ま〜話し合いなよ」
「おう」


ダラダラと延びた髪はいつまで伸びるつもりだろう。
口の悪さも多少性格に難があるのもお互い様だと思えた。
携帯を切りどうしていいのか分からない胸中を押さえる。
その刹那又携帯が鳴った。













「・・・・何よ」
「お前電話長すぎだっつーんだよ!!」


湯舟からだった。
唯一知っている男、
の気持ちをしっている唯一の男が湯舟だ。
毎回絶対言うんじゃないわよ湯舟。
の台詞は毎度それから始まる。
馬鹿だなお前、率直馬鹿な湯舟はそう言う。


「何よっつってんでしょ」
「はあ!?んな言い方しちゃっていいのか〜〜?」
「・・・・・何!?」
「お前にさぁ、い〜い話、あんだけど」
「何よ」


これからずっと友達で卒業して離れたらようやく忘れて、
それまでずっとこの関係が続くのだとばかり思っていた。
それが一番近しい未来だろうし一番無理のない選択だと。
湯舟の声越しに何人かの声が聞こえる、
湯舟の口を閉ざすのは元々無理だったのかも知れない。
これは結構やってられない展開ではないか。


「・・・・はっ?」
「ど〜だよ感謝してもいいぜ
「いやいやいやちょっと!!」
「んじゃ〜明日!じゃ〜な!」
「ちょっ、ちょっと!!」


一方的に切られた携帯を目の前には息を飲む、
何がどうなっている、何がどうなった。
は急激に熱くなる顔を抑えながらベッドに寝転んだ。













新年会と銘打たれた飲み会、それに呼び出されたわけだ。
桧山は彼女連れではなかった、湯舟の笑い顔が癇に障った。
表情から読めば湯舟を筆頭に岡田・若菜・新庄が知っているらしい。
あんたふざけんじゃないわよ。
は湯舟に詰め寄るが既に酒の入った湯舟には話が通じない。


「飲め!」
「ちょっと!!」
「お、こっち来いよ」
「え?」


余り浮かない表情の桧山がを呼んでいる。
はふと素に戻った。
背後から湯舟の腕がの肩に乗りグイと身を寄せた。
よかったじゃね〜の、耳側で湯舟の声が。


「ばっ・・・!!」
「行けって!」
「何考え―」
「いーかげん進展しろよ!」
「うっ」
「行けって!!」


ドンと背を押されは腹を括る。
自信なんかないわよだってあいつには
彼女いるし相談とか受けてるし―
あたし一体何しに行くんだろう。
はふと過ぎる疑問を振り払った。













桧山は案の定落ち込んでいた。
彼女ともう駄目かも知れないと、こんな状態の桧山に告れるわけがない。
何が理由なのよ、がそう聞けども
これといった理由を言わないのだからどうしようもない。
ビールを片手に愚痴る桧山とピザポテトを食べながらピーチツリーフィズを。
何だろう、この関係は。


「・・・・・あ、あのさ桧山」
「あ?」
「・・・・・何でもない」


口を開き瞬間後悔をした。
こんな雰囲気をつくってしまえばその気がなくともばれてしまうだろう。
桧山の視線を感じる、顔を上げる事は出来ずは視線を逸らした。
悪い人間だ、あたしは本気で悪い人間だ―
自分の事しか可愛がってないでも
皆自分が一番可愛いんじゃないの、何開き直ってんのよあたし。


「・・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・」
「・・・」
「・・」
「・」


その後は本当に覚えていない。
只酒を飲んで意識が徐々に遠くなっていった事だけはようやく覚えている。
岡田が心配そうに顔を覗き込んでいた、それも覚えている。
新庄が大丈夫か、そう言っていた、何と答えたか覚えていない。













「・・・・・・・なぁ」
「誰だよにんな飲ませたの」
「勝手に飲んだんだよ」
「あいつ怒ってんのはさ、」


コイツが理由なんだってよ。
すっかり酔い潰れてしまったを指差しながら桧山は若菜に言う。
と仲よすぎなんだってよ。
それが嫌だって言われても分かんねーよなどーしていーか、
桧山は鳴らない携帯を見た。


「・・・・つーか、」


そりゃがお前の事好きだからだろ。
若菜の言葉に桧山が驚く事もない。
だよな、ポツリと答えた桧山の声に嫌味はなかった。
ずっと気づいていてそれでももう仕方がないと
割り切っていたから、だから続いた。


「何かよ、」


上手くいかねーよな。
桧山の声が少しの笑い声と共に響いた。

ドラマ化記念に再UP、みたいな…。
まあドラマは見てませんが。