明日を狩る

まるっきりそぐわない生活を営んでいる二人だと思っていた. むしろそうだろう。
あんな運動馬鹿とそぐうはずもないし
どちらかといえばはインドア派、
陽には焼けるし身体は痛くなるし
それよりも何よりも今はとても寒いし。
朝早くからのランニングなんてそれこそ最悪だ、
絶対に付き合わない。
そんな二人の唯一の共通点は何だ。
同じ学校だ、同じクラスだ。そうして―


「げ」
「おっはよ〜さん」
「あんたま〜た走ってんの・・・?」
「化粧ボロボロ、最悪」


決して足を止める事はなく気持ちスピードを落とした赤星は
の顔を覗き込んだ後そう呟いた。
余計なお世話って言葉知ってる?ねえ赤星君。
疲れ切っているは決して言葉に出さない言葉を飲み込んだ。
赤星の姿はあっという間に遠くに消えそうだしも振り返らない、
早く家に帰ってシャワーでも浴びて一眠りして。
そうこうしている内にきっと友達からメールが入って
それで起こされ(恐らくは昼辺りだ)緩々とご登校を。
唯一の共通点、それは早朝に出くわす、只それだけの事だ。













以前は頻繁に遭遇していた安仁屋達も
最近はまるきり姿を見せないし
は少しだけ淋しいと思ったがやはり口には出さない。
どの道遭遇した所で他愛もない話をしたりふざけあったりするだけだ。
学校帰りに真っ直ぐ街へ遊びへ、そのまま調子がよければ家に戻らず―
親も半ば諦めている。


皆と騒いでいれば時間なんてそれこそ
あっという間に過ぎてしまうし何も考える必要がない。
危険を察知出来臨機応変に対処出来れば
それだけで成り立つライフスタイル。
彼氏を作ろうだとかそんな行動ですら面倒臭いと、
やってられないとすら思えた。
皆楽に育っている、皆楽に生きている、それは違う。
楽な方に流されて楽な方を選んでいるだけだ。


「・・・・・・・ん」


この前落とした着メロが鳴っている。
不特定多数の人間からの着信及びメール専用。
ベッド上に置いておいたはずの携帯の姿がない。
バイブが忙しく自己主張をしているところを見れば
きっと床に落ちているのだろう。五月蝿い。
ズルリとベッドから落ちたは携帯を手で探しあてた。


「あ?」


メールのあて先に少しだけ笑う、知らない人間だ。
本文を見れば誰なのかは一目瞭然、早朝に出くわしたあの男だ。
そういえば赤星の携帯の番号もアドレスも知らなかった事に気づく。
風俗のチラシ宜しく誰彼構わずばら撒いているはずなのに、だ。


『来ねーの?つーか朝帰りし過ぎだっつーの』


赤星は何を言いたいのか。
は笑いながら起き上がりメールの返信は返さない。
学校に行く理由は何だろう、頭に浮かぶのはほらあれだ、友達に会う為。













はああいう娘だと、誰だったか分からないがそんな話を聞いた。
悪い娘だとは思わないし面白いし、そう軽いとか遊びが激しいとか
そんなんじゃないけど―けどああいう娘なの。
分かり辛くまったく分かりやすい説明だ。


朝帰りのに初めて出くわしたのは丁度一月の前の出来事だった。
今までの姿を見た事はなかった。
疲れきったサラリーマンや酒の匂いの取れない酔いどれ、
仕事帰りのケバイお姉さん。
そんな中突然姿を見せたにそりゃまあ、人並みに驚きを覚える。


疲れの浮き出たは少しだけ俯いた姿勢でよろよろと歩いていた。
その隣を赤星は颯爽と駆け抜ける。
最初は気づきもせず(それ以前にきっと脳死状態に近かったのだろう)
いい加減苛立った赤星は自ら声をかけるという暴挙に打って出た。
は不機嫌そうに視線を交わした。
寝不足を引き摺った彼女は学校で見る姿とは少しだけ違う表情を見せる。


「お〜〜〜い、」


わけわかんないメールくれんのよしてくんない。
屋上で寝転んでいた赤星を跨いだ
スカートの中身を隠そうともせずそう言い放った。
今朝とは違いばっちりと施された化粧、
人を食ったように笑うその表情は常時つけられる仮面だ。


「んだよ、何はいてんだっつーの」
「これ?寒いじゃん」


短いスカートの中は一体。
は薄く笑いながら赤星から離れた。
赤星の手がの足首を掴んだ、が振り返る。


「・・・何?」
「別に、」


あったから。
寝転んだままの赤星は顔だけを寄こしたままそう言い
未だ足首を掴んだままだ。


「もうアレはかね〜の?あの見っともね〜の」
「は?ルーズ?はかないって、いやそれよか・・・」
「こっちのが絶対い〜よな、ハイソ、紺、サイコー」


少しだけ卑猥な感じがしたのは何故だろう、
足首を掴まれるのは得意ではないと思った。
赤星の手は無駄に
(野球部だという点では決して無駄ではないのだろうが)
大きくの足首等容易く掴める。 決してこちら側に来る事はない赤星と
引き寄せてはならないと思う、近づければ尚更。


「今日も朝帰り?」
「当たり前」
「明日もかよ」
「余裕」


一向に手を離さない赤星には近づく、
ゆっくりと近づき身体を近づけ頬に口付ける。
赤星は目を閉じずも閉じず―
お互い何一つとして感想も漏らさず只何となくの空気ばかりが流れた。
赤星が手を離しは屋上を下りる。
濡れた頬を撫でた赤星はやっと風の冷たさに気づいた。

赤星はきっと誰に対しても臆しない…