フヨウナ熱ノショウジルカラダ-刻印捜し

「大体お前らはやり過ぎなんだ」
「仕方ねーじゃん」
「迷惑被るのは御免だ」
「日頃の行いが悪ぃ、あいつのせいだろ」
「ま、確かにな」
「認めねーのが尚更ムカつく」


河埜の周囲に集まってきた例の二人(柴田&淡口)は
江夏不在の教室内で笑う。
幾ら俺でもちゃんの
メルアド何か知らねっつーんだよ、
柴田の携帯の画面には出会い系サイトの勧誘メールが。


「けどよ、ありゃキセキだぜ」
「何が」
「あいつとちゃん」
「何で」
「お前知らねーのかよ、江夏の発言」
「は?」


この時江夏は電車に乗っていた。
どうしようもない苛立ちは即座に解消させなければならない。
昨晩ヤれなかった事に責任を押し付けようとも
それは無理だ、それは違うからだ。
そんな事は大した問題ではない
(肉体的な解消が
未然に終ってしまっているという点では
害有かも知れないが)
見慣れた景色が見え始め
少しだけ後悔の募る過去を押し殺す。
懐かしくはある、望郷の念はない。


「あいつもてんじゃねーか、」
「あーな、確かに」
「女にゃ不自由しねーだろ?」
「性格悪りーけどな、要は顔だろ」
「そーゆー事、で、」


授業中の時間帯、元々マメな性質ではない
即座にメールを返すとは思えない。
しかも先日の喧嘩未満の状態を続けているのならば尚更。
陽に焼けるアスファルトや表示の薄れかかっている通学路、
昼前の喧騒が疼き始める街中。
正面から向かえる気持ちには到底なれず江夏は裏門へと廻った、
まさかこんな場所に再度足を踏み入れる事になるとは
夢にも思わなかった。


「ちょっとした事ですぐ終わってたわけだよ、我侭だからな」
「まーヤれりゃいいってのは俺も同意」
「・・・・話、続けろ淡口」
「で、だ」


あまり使われていない裏門は蔦が絡まり
幾らでも余計な思い出を掘り返させてくれる。
この先にある古びた小屋(事務員用の倉庫だったらしい)で
何人の女と関係を持った。
不思議とには知らせたくない事柄だ。
もしかしたら彼女はその事を知っているのかも知れない。
これは恋か。
これは後悔を齎すものなのか。
これは執着か。


「何なの?」
・・・・」
「あんた学校は・・?」
「抜けて来たんだよ、」
「は?」


いいから携帯見せろ。
突然の来訪者は横柄な態度を取る。
嫌、即答したの手を掴んだ江夏は
力ずくで携帯を奪おうと。
ちょっとあんた何やってんのよ!!!
の叫び声が木霊する。


「見せろっつってんだろーが!!」
「嫌だって言ってるでしょ!!」
「んなに見られたくねーのかよ、」
「大体そうでしょ!?」
「誰にメール打ってんだよお前、」
「は!?だからメール返さなかったのは―」


背後からを抱き締める形で江夏は携帯を奪おうと。
迷走する疑惑はどこへ。


「気に入らねー」
「い、痛っ!!卓あんた何―」
「昨日ヤれねーし、」
「はい!?」
「お前は携帯見せねーし、」
「あのね、」
「クソ、ダセー」


そう呟くと江夏は腕を離した。













ちゃんってのは
アイツが初めて断られた相手なんだってよ、
まー何で付き合ったのかは分かんねーんだけど
江夏から誘って断られたのは初めてだったらしーぜ、
その時のの台詞は


『何かめんどくさいから今日は嫌だ』


流石の江夏も酷く驚いた表情を。
それから何となく主導権が定まらないまま
関係は今に至る。


「だからか知んねーんだけどよ、」
「あいつちゃんに対しては嫌に妬くんだよ」
「しかも無自覚、超性質悪りー」


お前らも相当性質悪りーよ。
呆れた中畑がそう言えば
だって面白れーんだもんアイツ。
まるで悪びれなく柴田が応える。
今まで相当小馬鹿にされ続けた分の
仕返しはするつもりらしい。


「お前らが相手するんだな、」
「は?」
「もうじき戻るだろ、江夏」


幾度か巻き込まれかけた河埜はそう言い席を立つ。
被害が及ばないよう現場には立ち会わない、
まったく馬鹿ばかりだぜここは―
河埜の独り言が鮮明に響いた。













「あいつ一体何しに来たのよ・・・・・」


結局江夏はあの後すぐ帰り一人置き去られた
小首を傾げながら調理室へと戻っていた。
携帯を見せろと言われたのは初めてだ、
最初から見せるつもりなど毛頭なかったにしろ理由が気になる。


「最近あいつおかしいわよね〜〜」


何だろうまさか悪い薬とかやってんじゃ。
無用な心配を募らせれば携帯に新着メールが、
の前方では野球部の面々が待ち受ける。
メールは江夏から。件名はナシ、内容は。


『バカ女』


「な・・・・・・・!!!」
「「「「あ――――っ!?!?!?!?」」」」
「何!?」


突然沸き起こった奇声にが顔を上げれば
野球部の面々、皆一様にを指差す。
こんなメールに一体何返せって言うのよアイツ、
まるで意味が分からない。
いやそれよりも今の状態が分からない。


「な、何なのよ吃驚した・・・」
お前・・・!!」
「ちょっとみんな見てるからヤメテよね!!」
「何してきたんだっつー話だよ!!」
「はあ!?」


一人わけも分からず困惑する
未だ落ち着かない様子の傍観者。
江夏は一人後味の悪そうな表情のまま電車内に。
もしこれがキセキならば愛に変わる予定だ。


「ちょっ・・・!!!」
「何!?塔子まで!?」
「こっち、こっちに来て!!」


調理室を飛び出した塔子は
片手にファンデーションのケースを持つ。
その鏡で映されたものは。


「・・・・・・・」
、あ、あの・・・・」
「卓・・・・」


廻らない頭で必死に原因を考える。
今朝方まではなかった首筋の痕はいつ出来たのだろう。
挙句これはカッターの襟では隠せない位置にある。
これは恥ずかしい、しかも皆
江夏と会って来たという事を知っている。
これは幾ら弁解しようとも怪しさが増すだけだ。


「あんの馬鹿・・・・・・!!!」


背後の騒動を治める術など持ちはしない。
アイツは一体何がしたかったのよああもう―
が小さく項垂れた。













「クソ・・・」
「何かショックだよな」
「あー・・・」


の気づかない間に
つけられている薄いキスマークの所在に
最初気づいていたのは安仁屋であり
今回ばかりはそれがないと踏んだのに。
何となく江夏の例の表情がちらつく気がし
皆一様に気が滅入った。

こんなオチ。